徳島県立阿南支援学校

エシカル消費を基にした活動

 阿南支援学校が位置している地域は「竹」が特産物なのだが、同時に放置竹林が課題となっている。徳島県では地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費活動である「エシカル消費」という活動を推進している。そこで、阿南支援学校では、地域の人と協力し、放置竹林を活用する取り組みを始めた。阿南支援学校は地域の避難所に指定されていることから、竹を使用した避難所の間仕切り作りや災害時快適トイレ(コンポストトイレ)の製作を行った。一連の活動を通して、ぼうさい甲子園に初応募ながら『with コロナ賞』を初受賞するという快挙を達成した。

 徳島県立阿南支援学校は「ぼうさい甲子園」に初応募ながら初受賞を果たし、『withコロナ賞』を受賞した。主な防災活動は、地域の特産物を使った避難所での間仕切りや災害時快適トイレ(コンポストトイレ)の制作だが、そこにはとあるからくりがある。

竹パウダーで消臭:コンテナに木の便座を載せ,中に竹パウダーを入れた簡易トイレ
竹パウダーで消臭:コンテナに木の便座を載せ,中に竹パウダーを入れた簡易トイレ

 阿南支援学校は、阿南市上大野町の那賀川の近くにある高台に位置している。阿南市は,竹が特産物である一方、放置竹林が課題となっている。この課題を解決するためには、竹を伐採することが考えられるが、伐採には費用がかかってしまい、伐採後の竹は焼却し、廃棄物にもなってしまう。そのような中、徳島県では消費者庁を誘致する取り組みの一環として、消費者教育を推進している。阿南支援学校では、学校での学びが社会や生活と接点を持つことを重視しており、その観点から消費者教育を取り入れることとなった。

 数年前、NPO法人「竹林再生会議」から竹の有効活用について阿南支援学校へ提案があり、竹から紙を作る学習を行うこととなった。阿南支援学校は避難所に指定されていることもあり、今回、竹紙を避難所の間仕切りに活用することとなった。

避難用の間仕切り:完成した写真
避難用の間仕切り:完成した写真

 支援学校の児童や生徒にとって、竹から紙を作ることはなかなか難しそうだが、竹を漉くことはバケツから漉き枠に注ぐだけでできるようになっており、知的障がいの子どもたちでも簡単にできる工夫がされている。

竹ほぐし:竹から繊維の一本一本を手作業で取り出す。竹紙材料づくりの一工程
竹ほぐし:竹から繊維の一本一本を手作業で取り出す。竹紙材料づくりの一工程
繊維たたき:竹の繊維を木槌でたたいて細かくすることで竹紙の原料となる。
繊維たたき:竹の繊維を木槌でたたいて細かくすることで竹紙の原料となる。
紙すき:大きな木の型枠に竹紙の原料を流し込み,乾燥させれば竹紙のできあがり
紙すき:大きな木の型枠に竹紙の原料を流し込み,乾燥させれば竹紙のできあがり
紙はがし:乾燥した竹紙を型枠から外す作業
紙はがし:乾燥した竹紙を型枠から外す作業

 地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことを「エシカル消費」というが、阿南支援学校の避難所間仕切りには竹以外にも様々な「エシカルの工夫」が織り込まれている。平和への祈りなど様々な思いが込められている一方で、その後の処分にコストがかかってしまう広島県の千羽鶴や、生態系を脅かす存在である外来植物のオオキンケイギクや、コーヒーのカスなども竹紙に漉き込み、避難所の間仕切りとして活用しているのだ。このように阿南支援学校では、地域に眠っている様々なものを紙という資源に変化させ、災害時にも役立たせるというエシカル消費を通して、教育と社会貢献を同時に推進しているのが特徴である。

広島の折鶴:平和の折り鶴をミキサーにかけて竹紙として再生
広島の折鶴:平和の折り鶴をミキサーにかけて竹紙として再生
オオキンケイギク染め:オオキンケイギクで染めた竹紙を干す作業
オオキンケイギク染め:オオキンケイギクで染めた竹紙を干す作業
コーヒー灰:竹紙の型枠にコーヒーの灰をふりかける。
コーヒー灰:竹紙の型枠にコーヒーの灰をふりかける。

普段の防災教育への取り組み

 阿南支援学校は高台に位置しており、津波による被害が少ないため、主に火災と地震を対象とした防災教育が実施されており、年に2~3回の避難訓練を実施している。知的障がいのある児童生徒たちの多くは、防災に関する概念的知識を理解することが難しいため、災害発生後の初期避難については座学だけでなく、実際の避難行動を通して児童生徒たちに教えている。行動を通して教えることで今後災害が起きた時、自分自身で避難する際にも役に立つのだ。

 他にも、障がいの特性により食品の嗜好に偏りがある児童生徒もいることから、数年前までは児童生徒が近隣のスーパーマーケットで自分の好きなお菓子類を災害備蓄品として購入する取り組みを行っていた。現在は、児童生徒一人一人の嗜好に合わせて保護者と児童生徒がいくつかのメニューから選んで購入、備蓄する取り組みに変更し、災害時にも個別の特性に配慮した食事ができる取り組みを続けている。

 また、3年ほど前には防災担当教員を中心に、近隣住民とともに避難所開設の実地訓練を行うなど、地域防災を支える施設としての機能充実も図っている。

これからについて

 いままで作られた避難所の間仕切りも現在はまだ実際に活用されたわけではなく、保管されている状態にある。今後、間仕切りを地域の避難所などでどのように活用していくのかが今後の課題である。

 阿南支援学校では、エシカル消費と防災を相互作用しながら、独創的な防災教育を積極的に取り組んで行く。

小径木:避難用間仕切りの材料となる小径木
小径木:避難用間仕切りの材料となる小径木