小屋浦地区は西日本豪雨災害で大きな被害を受けた。当時の小学校2年生の児童の中には自宅の被災や自衛隊のボートでの救助を経験した者もいる。被災後、町の人々の元気がなくなった。子供たちは地域の人々を笑顔にしようと提案し、保護者や地域住民と一緒に花壇づくりを始めた。 3年生だった昨年度は保護者や地域の人と花壇を見た人に笑顔を広げた。今年度はその笑顔を守ろうと子供たちは考えた。そのためには命を守る防災を学ぼう。防災の学びは、地域や専門家の支援を受けて進められていった。広島県土木建築局砂防課や国土地理院の専門家、地域の自治会長や防災士を招き、総合的な学習の時間をメインに、時には国語や社会などの教科の時間も使った。学びの中心にはいつも子供達の思いがあった。思いを実現するために、たくさんの人の協力があった。ハザードマップや新聞などの成果物は掲示して他学年の子供たちも学べるようにしている。 1年間の学習を終え、2月19日「小屋浦キッズ防災士」に認定された子供たちは、新年度も防災の学習に取り組む。
地域の人と災害当時を思い出しながら地域探索。
命を守るために大切な情報を保護者や地域の人に伝え,防災について話し合う。
13人みんなの思いを一つにし,できあがった小屋浦キッズ防災士缶バッジ。
地域探索をもとに子供から老人までが見てわかりやすいハザードマップ作りを行った。
防災士から小屋浦キッズ防災士認定書を受け取った子供たち。

坂町立小屋浦小学校

西日本豪雨災害から2年

 広島県自主防災アドバイザーに「ぼうさい甲子園」を紹介してもらい、応募を勧められた。初応募での受賞に子供たちも驚いている。外部の方に自分たちの活動が認められという喜びが大きい。もっと頑張ろうという気持ちになっている。

 小屋浦地区は西日本豪雨災害(2018年7月)で大きな被害を受けた。亡くなった方がおられ、道路はまだ復旧できていない箇所もある。護岸工事も進行中だ。

 被災後、地区の方々に元気がないのを感じた子供たちは、小屋浦のみんなの笑顔を守りたいと活動を始めた。

 4年生の児童は3年生時、地域に笑顔を取り戻そうと、花壇を作って花を育てた。小屋浦は子供が少ない地域であるがその分、地域と学校の距離が近く、保護者も住民も協力的である。

 今年4年生になった子供たちは、昨年度は地区に笑顔を広げたので今年度はその笑顔を守りたいと考えた。そのためにはまず命を守らなければならない。だから、災害について詳しくなろうと防災の勉強を始め、命を守るために大切なことをいろんな人に伝えたい、そして大切な命を守りたいと行動し始めた。

専門家からいっぱい学ぶ

 防災に詳しい人になるという目標ができた4年生がハザードマップづくりを活動に選んだのは、複式学級の5、6年生の活動報告を聞いたのがきっかけだ。

 広島県教育委員会が主催する安全指導者講習会は外部の専門家を紹介している。そこで紹介された広島県土木建築局砂防課を招き、小屋浦地区にある砂防ダムを見学した。土石流が発生するメカニズムを模型で教えてもらった。

 国土地理院の講師からは小屋浦の地形を学んだ。小屋浦には海抜の低い所があって、大雨の時にはそこに水が溜まる。100年以上前の災害碑もある自然災害伝承碑は地図記号になったが、小屋浦がきっかけだと学んだ。

 地域を歩くときは地元の自治会長や防災士も協力してくれた。多くの外部講師の支援を受けて完成させたハザードマップは生活科・総合ルームに掲示され、誰もが学べるようにしている。

被災体験に配慮しながら

 4年生は豪雨災害の時、2年生だった。現在の担任は、当時は別の学校に勤務していて、小屋浦にはいなかった。当時の子供の状態を知らなかった。あの災害に触れていいのかどうか、思い出させていいのかどうか、悩みながら慎重に授業を進めていった。最初は砂防ダムや地図といった学習から入り、それから白地図に当時の様子を書いた付箋を貼らせた。その地図を見ながら、自治会長から当時の話を聞いた。13人の4年生の中には、自衛隊のボートでの脱出や家の裏山の崩壊、1階の水没など、直接災害を体験した子供もいる。そんな経験を持ちながら子供たちは、小屋浦が好きで、地域を守りたい、地域に貢献したいという気持ちを前面に出し、過去に立ち向かっていった。

 参観日には防災の授業を行った。当時、2・3・4丁目が大きな被害を受けた。そこで、住んでいる地区ごとに分かれ、子供たちが学んだことを保護者に伝え、防災について話し合った。

教科の時間でも防災を学ぶ

 総合的な学習の時間だけではなく、教科の時間でも時々、防災をテーマに学習した。例えば、国語の授業で「伝える」をテーマにして新聞づくりに取り組んだ。防災で学んだ知識を周りの人に伝えたら災害が発生してもその人は助かると考えた。新聞づくりはそんなに簡単な作業ではない。中国新聞社の講師に新聞づくりを学んだ。完成した新聞は、他学年の子供たちも読めるように教室だけではなく階段に掲示した。

学びの方向は子供たちのアイデア

 4年生は13人のクラス。防災を通して物事に真剣にとりくむ姿勢が育ってきた。外部のいろいろな人に認められて自信を深めている。5年生ではさらに成長させたい。4年生での防災学習の内容には「流れる水の働き」など、5年生で学ぶ単元も含まれていた。発達段階的には難しかったかも知れない。それを5年生でもう一度学び直して上書きさせたい。

 今年度は学習の成果を発信する機会が保護者参観日しか取れなかった。もっと機会を作りたかった。コロナ禍でなければ、地域のおじいさん、おばあさんとの触れ合いサロンにも行けたはずだ。来年度は、地域との交流をもっと増やしたい。

 子供たちに、取り組みたいことを聞きながら、そのアイデアを取り入れた活動を通して成長できるように見守っていきたい。子供たちは自分たちの地域のことだからより真剣な姿勢で学んでいる。教師の仕事はその手助けだ。

「小屋浦キッズ防災士」は来年も活動を続ける

 「小屋浦キッズ防災士」という言葉は担任が作った。「防災に詳しい人になりたい」というこどもたちのアイデアを具体化した、小屋浦小学校独自の取り組みだ。認定書と記念の缶バッジがある。缶バッジのデザインは子供たちが考えた。13人それぞれがアイデアを出し、全員の思いをひとつにしようと、13のアイデア全部をひとつの缶バッジに盛り込んだ。

 1月に行った「2分の1成人式」で缶バッジを保護者に紹介し、小屋浦キッズ防災士の認定書を防災士から頂いた。賞状は防災士の手作りだ。

 今後「生活科・総合ルーム」を整備して、学びの成果物を集めて展示する。防災の教室として活用する予定だ。

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