グランプリに輝いたのは全寮制の特別支援学校。全国を見ると、特別支援学校と地域の関係が希薄なところが多い。全寮制となるとなおさら地域とのつながりが薄れがちだ。ところが女川高等学園は、生徒たちが企画・運営している避難所運営訓練を地域と一緒に続けている。開校は2016年とまだ浅いが、地域との関係をしっかりと築いてきた。 それがコロナ禍でできなくなった。今年は生徒・教職員だけの訓練となった。それでも、その内容は生徒たちのアイデアが詰まってユニークだ。活動内容は、生徒の広報グループが新聞とパンフレットにして地域に配布する。これまでに培ってきたつながりをコロナ禍で途絶えさせたくない。 学校・寮は、防災を特別な学びだとは捉えていない。日常生活の延長に防災がある。だから、普段の広報、救護、安全点検、環境整備、給食給水、総務の6つの班活動を大切にしている。学校で防災の基本を学び、寮生活で日常生活と防災を繋ぎ、発展させている。
1年生がこれまでの先輩方の取組を学習し,避難所運営訓練を体験しました。
大雨災害を想定した避難準備のシミュレーション訓練の様子です。
冠水時の長靴の重さや足下が見えにくい環境を再現し,体感する訓練です。
コロナ禍で例年の炊き出し訓練をやめ,一人分に分けた食事を配食しました。
地域の皆様との訓練を自粛し,新たな地域との関わり方を模索しました。

宮城県立支援学校女川高等学園

今年の避難所運営訓練は、例年と違う

 宮城県立支援学校女川高等学園は2016年に開校した全寮制の特別支援学校。宮城県女川高等学校の跡地でスタートした。体育館だけ当時のままで校舎、寮は新築された。

 夜、取材で寮に集まってくれた生徒たちが受賞の感想と今年のイチオシを語ってくれた

  • 3年間、実践してきたが、コロナ対策で例年と違う形になって大変だった。避難所運営訓練では感染者をどう隔離するかなどの課題に他の班と連帯して頑張った。受賞できてよかった。・グランプリ、ありがとうございます。給水班だったのに炊き出しができず、残念。新しい生活様式が求められていて、参加者の密集を避ける方法を考えて訓練にとりくめた。
  • 去年と違って体育館で寝泊まりがでなかった。でも、何もしないのは何も学ばないことだと思う。今年は、豪雨被害を体験する訓練を企画し、まず班員が寮の風呂にためた水の中を靴と長靴で歩き体験した。訓練当日は、その重さや歩きにくさを体感するため足に重りを付け、ブルーシートで水深を再現した。去年、一昨年とは全く違う訓練だったが、いい勉強になった。
  • 去年、2年生の時の防災訓練では私の班は夜にいろんな活動をした。今年はそれができず残念だった。私の班では、全校生徒に道具の大切さを教え、シチュエーションごとに必要なツールを選んでもらった。食品や衣類、ラジオ、懐中電灯、赤ちゃん用品、避難所、非常持ち出し袋など、いろんなものを準備した。高齢者自身、赤ちゃんのいる家庭、老人のいる家庭の3グループを設定して考えてもらった。
  • 広報班に所属していた。去年はみんなで一つの新聞をつくった。今年はタブレットを使って、メンバーが一人1部ずつ作成した。各班の活動を取材して回り、写真も撮ってパンフレットも作成した。新聞は昇降口に貼り出した。パンフレットは、今年の避難所運営訓練に参加できなかった地域やお世話になった方々にも配る。
  • 防災訓練では、去年は体育館に寝泊まりしたが、今年はできなかった。限られた時間の中で工夫して行った。避難所運営訓練では救護班に所属した。他の班と協力しながら、新型コロナ感染症の疑いのある方にどう対応するか、実地訓練した。感染の疑いのない人は体育館へ、疑いのある人はテントへと分けていった。

日常の班活動が防災につながる

 学校・寮での普段の生活では、生徒たちは広報、救護、安全点検、環境整備、給食給水、総務の6つの班のどれかに所属している。日常の生活の中で班活動を行うが、それが防災につながっている。

 学校で避難所運営訓練にとりくみ始めたきっかけは、2016年の開校時にさかのぼる。宮城県で初めての全寮制支援学校としてスタートし、生徒たちが3年間の学校・寮生活で何を学べるかを考えてきた。女川は東日本大震災で大きな被害を受けた。どのようにして防災を日常に取り入れるかが課題だった。生徒の生活の中に自主防災組織を作っていった。日常の活動が災害発生時にも役立つように工夫して、自主防災組織を運営してきた。例えば、食堂の給水機に係の生徒がいつも水を補充する。そんな活動が災害時に生きてくる。月に1回は寮の安全点検を行う。廊下や階段の手すりが外れていないかなど、安全の視点でチェックしている。常設の懐中電灯の電池残量などもチェックの対象だ。

 今年の総合防災訓練は日常活動の総括とした。最近のニュースなどを参考に、防災で気をつけなければならないことを役割分担して学習し、プログラムを企画した。運営も生徒たちが行った。開校からの活動を通して生徒が主体的に避難所運営訓練を行うイメージを整えていった。今の3年生は、1年生の時にぼうさい甲子園に応募し、卒業学年でグランプリをいただいた。

生徒が主体となる防災の学び

 防災教育では先生方がいつも留意していることがある。知識を教えるよりヒントを与えて、生徒たちの間で時間をかけてやり取りをしてもらう。プログラムをみんなで共有する時間を与える。先生方が答えを出しすぎない。防災訓練の企画や運営方法を生徒が主体的に考える機会を保障したのだ。

 避難所運営訓練は学校全体の行事で、主管は学校の安全を管理する部署。実際は、寮が中心になって発展させてきた訓練だ。生徒たちは、昼の授業で一般的な防災を学び、夜、寮の先生と一緒に訓練内容を考えてきた。

地域と一緒にとりくんできた避難所運営訓練

 開校以来、外への発信、外とのかかわりを追求してきた。避難所運営訓練に地域の方を招いた。地域の区長や東日本大震災の経験者だ。2回目以降、参加人数も増えた。今年も学校と地域で避難所運営のシミュレーションにとりくむ予定だったが、コロナ禍の影響で外部の参加者をお招きするのは控えた。

 その代わりに、広報が今年の内容をパンフレットにして地域に発信する。来年も避難所運営訓練は実施する。地域の人を招くつもりだ。これまでは平日の午後に実施していた。3時頃にいったん終了し、生徒たちは体育館に移ってパーテーションを組み立て、寮から布団を持ち込んで一泊する。夜には、真っ暗な校舎の中で防犯見回り訓練を行う。肝試しみたいになってとても楽しかったようだ。今年はそれができなかった。代わりに大雨の時の避難に何を持ちだすかを考えるイベントにした。食事は、去年までは町から大なべを借りて炊き出しをしていた。朝食は栄養士の先生の協力で、食器にラップを敷き、根菜スープや防災食でシンプルにしていた。

 子どもたちは保護者と離れて過ごしている。訓練の様子を10分程度の動画にまとめて保護者に届けた。生徒たちが元気に、主体的に活動している姿が印象的だ。

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