七郷は、東日本大震災で被災した荒浜地区のとなり、内陸側に位置している。学区の一部は津波被害を受けた地域だ。防災教育の実践は8年になる。この間、子どもたちも大きく変わった。実践を始めた当時のこどもたちは震災体験を持っていた。震災の映像を使ったり、体験談をしたりする授業は特別な配慮が必要だった。今は震災の記憶を持たない子どもたちが学ぶ。震災の被害を伝えるだけではなく、未来につながる防災教育をめざしている。 子どもたちは6年間の系統的なカリキュラムを通して、地震、風水害など、災害への対応の仕方を学ぶ。低学年ではこの地域で起こりうる危険を知り、対応を学ぶ。学年が上がると、情報収集の方法や判断する大切さを学ぶ。どの学年でも地域と関わりを持った学習プログラムとなっているコロナ禍で地域の方々と直接関わることが難しかったが、できることを模索して子どもたちの学びを地域へ発信している。
6年生「未来のまちづくり」荒浜の魅力を伝えるための施設や建物を考える児童
4年生「地震に備えよう」仙台市減災・防災アドバイザーを招き、話を聞く児童
3年生「防災マップを作ろう」消防団に取材する児童
2年生「防災ダッグ」地震のポーズをとっているところ
1年生荒浜で被災した教員と児童(当時6年生)から話を聞く様子

仙台市立七郷小学校

海、地域とかかわれない今年の学び

 賞を発表したら教室からは「おお、すごい」という喜びの声が上がったという。先生方にとっても励みとなった。賞状を掲示し、学校だよりやホームページでも受賞を紹介している。

 今の子どもたちは映像や親の話を通して海は怖いと思っているのだろうか、普段、海に近づくことはない。お墓参りや震災の後に再開された海岸公園などに親と一緒に行くことはあっても、海水浴をすることはない。震災から10年が経ったが、深沼海岸は未だ遊泳禁止だ。

 震災後に始めた防災教育は足掛け8年になる。今年度も例年通りの防災教育をする予定だった。ところが6月までの長期臨時休校。秋までは地域へ出て調査することもできなかった。ゲストも招けない期間があった。ビデオ撮影したり、教員がインタビューしたものをまとめたりするなど工夫して学習を進めた。

未来のまちを考えた

 6年生はこれまで学区内を巡って地域の方の声を集めてきた。津波で被災した荒浜地区が隣にある。これまでは荒浜に住んでおられた方の話を直接伺ってきたが、今年はできず、ビデオや教員がインタビューしてまとめたものから荒浜の方の思いを感じ取った。

 まちづくりの学習は2-3人でチームを組み、未来にどんなものがあったらいいか考える。。地域を4ブロックに分けてそれぞれが担当する地区のデザインを考える。子どもたちは、荒浜のおじいさんやおばあさんの話を聞いた体験から、昔の風景を懐かしむ会館をつくろうと提案した。貞山堀の生き物を展示するミニ水族館や農業や漁業の体験ができる施設、レストラン、カフェ、展望台・・・。いろいろなアイデアが集まった。仙台市は沿岸地区の復興計画を公表している。スポーツ体験や農業体験ができる施設が今春には開館する。市が計画する病院や消防、警察、博物館などの施設は、これまで子どもたちが自由に発想したものと重なっている。

  去年までは、まちづくり学習の発表会には学校のある若林区の区長や町整備課のまちづくり担当者も参加していた。学区内にできた地下鉄荒井駅には3・11メモリアル交流館がある。3月末に子どもたちの作品を展示する予定だったが休館となってしまった。

6年間を見通した系統的な学び

 5年生は風水害を学ぶ。地域は2019年10月、台風19号で主に農作物が被害を受けた。子どもたちは理科で台風、風水害を学び、避難のタイムライン作って自分の行動を考えた。仙台市の防災アドバイザーからも避難行動を学んでいるが、先生方は、行政の指示を待つのではなく自分の素早い判断でより安全に動けるようにと、ずっと教えてきた。

 津波のハザードマップを見ると垂直避難で十分だと読み取れる。東日本大震災では校舎は被災しなかった。それでも先生方は、津波は校舎まで絶対に来ないと信じ込むことは危険だと教えてきた。子どもたちの中にはもう少し内陸に避難しようと考える児童も増えた。子どもたちに想定にとらわれない姿勢が育まれている。

 4年生は備えを学ぶ。コロナ禍がいったん落ち着いたころ、危機管理課の防災アドバイザーに話をしていただいた。社会科でも公助の勉強をし、家庭で家族防災会議を開き、家庭での話し合いをクラスで共有した。自分たちが学んだ内容を地域の方や年下の学年に教えるために、リーフレットや新聞を作成している。

 3年生は非常食について学ぶ。家庭の備蓄を調べたり、学校にある備蓄庫を見学したりして、災害時を生きぬくための備蓄について学んでいる。スーパーマーケットの見学ではどんな食品が非常食に適しているのかを勉強してきたが、今年は見学することができなかったため自分の家の非常食を調べる学習を中心に進めた。防災マップ作りでは、防災無線や地域の防災備蓄庫など、災害から地域を守るためのものがたくさんあることに気が付いた。

 2年生は仙台市の防災副読本を使って津波や地震、台風について学ぶ。学区の写真を見て、登下校中にここで地震が起きたら、強い風が吹いたら、などの先生からの問に、自分ならどう行動するかを考える。「防災ダッグ」のような活動的な学びも取り入れている。

 1年生は不審者から身を守ること子ども110番について学ぶ。地震の学習では地震がきたら「落ちるもの」「移動するもの」「倒れるもの」がないところを探して頭を守ることの大切さを学ぶ。ショートタイムで3・11前後には、自分たちが生まれる前にあった東日本大震災の時の話を親や荒浜で被災した方から聞く学習にもとりくむ。

 特別支援学級では、独自の防災ノートを活用したり、防災グッズを使う体験をさせたりして、災害時にパニックにならないようにしている。

未来に希望が持てる防災教育

 2015年度(平成25年度)から文科省の研究開発学校の指定を受けて防災教育の研究を始めた。実践を積み上げてきた8年で一番変わったのは、子どもに震災の記憶がないということだ。震災を知っている子どもたちが在籍していたころは、防災の学習で震災の具体的な話をするのが難しかった。今は荒浜の震災の写真を見せている。子どもたちは、「先生、これ本当?」と聞いてくる。多くの親は、小さい子には震災の話をしないようだ。

 防災教育が最悪の事態をイメージさせることがあるが、七郷小では未来を考える学習にしたいと考えている。これからも、夢や希望がいっぱい詰まった防災教育を全学年で行っていきたい。

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