子どもたちの防災の学びは紋切り型だった。地震が発生したら机の下に隠れる。それが、車いすに乗った子どもの考えだった。そんな違和感から始まった防災教育は、地域、行政、保護者、企業を巻き込んで、どんどん成長していった。学校は避難所指定を受けていないが、大災害時には避難者がやってくると考え、行政の危機管理課と避難所開設について何度も話し合い、独自の避難所開設マニュアルを作った。年に2回だけ、形だけの防災訓練だった防災の学びは、取り組みを始めてから3年間で、300人もの地域住民、関係者が参加するイベントに成長した。もちろん、リアルな防災の学びがその中心である。地元の高校生も協力してくれる。子どもたちの障害の状況や発達段階の幅は大きいが、だれもが理解できる防災教育を作ってきた。これまで積み上げてきた防災学習のノウハウ、避難所開設の手法、そして地域、行政、保護者、企業などとの関係をどう継続していくかが、これからの課題だ。
緊急地震速報ショート訓練
福祉避難所開設訓練
防災学習(炊き出し訓練)
防災体験プログラム

兵庫県立和田山特別支援学校

形骸化した防災学習を変えなければ

 防災の取組は2013年から始めた。和田山特別支援学校でがんばってきたことが受賞という形になってよかったと思う。防災を始めたきっかけは車いすに乗っている小学部の子どもの一言から。「もし今地震が起きたらどうする?」と聞いた。「机の下に隠れる」という返事が返ってきた。教えられた言葉を繰り返しているだけだった。何とかしなければと思い、学校全体の動きを変えようと考えた。保護者と地域の巻き込み方を考え、校内の防災体制の再構築をめざした。

 ゼロからのスタートだった。兵庫県震災・学校支援チームEARTHのメンバーにもなった。とにかく大人が変わらないだめだと考え、教職員の変革をめざした。

 当時、年に2回の防災学習は、消防を招いて消防車に乗せてもらう体験をさせるだけだった。子どもたちの発達段階には大きな幅がある。重度の子どもから大学に進学する子どもまで多様な児童生徒が学んでいる。そんな実態の中でみんなにとって学びになる防災学習ができるかを考えながら積み上げていった。

地域とつながることから始めた

 年に2回の防災学習の改革に着手し、3年間で形ができた。兵庫県教育委員会は地域と一体となった教育を推進しているが、和田山特別支援学校は通学区域が広く、地域に根差しているわけではない。地域から見れば自分たちの学校ではない。そんな状況でどうやったら地域とつながれるかを常に考えた。行きついた答えは、地域人材の活用と地域への公開だ。地域の方々に学校に足を運んでいただき、学校や子どもたちのことを知ってもらう。そうすることが、地域の方々が障害のある子どもたちの理解につながり、学校が防災学習の切り口を広げることにつながる。

 1・17のイベントとして「防災体験プログラム」を始めた。但馬地域の防災企業や防災士会など、最初は5団体が協力してくれた。当初は地域の人はなかなか来てくれなかったが、昨年度は13団体もの協力を得て、防災の一大イベントになった。今では地域の方々もたくさん来てくださり、300人が参加するイベントに成長した。

 ドローンを飛ばし地域を空から観察する。地元の建築会社が屋根の模型を作って、それが地震で倒壊したと仮定、ジャッキで下敷きの人を救助する。ダンゴムシのポーズは危ない。ダンゴムシのポーズをしているところに天井が落ちてきたらどうなるだろうと子どもたちに考えさせた。兵庫県栄養士会と一緒に防災クッキングと試食もしている。保護者がクッキング体験に参加してくれる。兵庫県立和田山高等学校の自衛消防団(生徒)に実演してもらう。神鍋自然学校にアウトドア防災を教えてもらう。テントの張り方を学び、薪を使ってお湯を沸かして足湯を楽しむ。重度の障害がある子どもたちもわかりやすい。大人から子どもまでそれぞれの段階での学びが生まれた。
 でも、今年は新型コロナウイルス感染症の影響でできなくなった。

 成果をどう次につないでいくか

 但馬地域は、感染者は少ないが、学校では文科省や兵庫県の指針、県教委の通達等をアレンジして、独自のガイドラインを作成して共通理解を図り、予防に努めている。

 また、だれもが防災の授業に取り組めるように、和田山特別支援学校の防災教育を50ページの冊子にまとめた。これまでの積み上げを活用してみんなに防災教育をしてもらいたい。心のケアも念頭に入れている。

 学校は避難所指定を受けていないので、地域住民は、学校に受け入れ態勢があることを知らない。阪神・淡路大震災の時、避難所指定していなくてもいっぱい避難してきたと聞いているので、準備をしておこうと思う。何かあれば地域の役に立てるように、受け入れ計画を立てている。昨年度、福祉避難所開設訓練も実施した。3年計画で去年が2年目だった。兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科の大学院生と一緒に、福祉避難所開設訓練のゲームを開発した。但馬地域の実情も入れて作った。校区である朝来市、養父市の防災部局からは課長をはじめ職員の皆さんがたくさん参加してくださり、一緒に勉強会をした。これが1年目のこと。

 2年目はゲームではなくリアルにやろうと頑張った。防災部局と一緒に、県の福祉避難所運営・訓練マニュアルを読んで、学校がどこまでできるかを詰めていった。但馬地域には災害時要援護者(特に高齢者)が多い。高齢化率は35%を超える。高齢者が配慮されるのが当たり前の状況にしないといけない。

 防災活動で地域とつながっていくと、学校の普段の取組や就職への理解、支援が地域に広がってきた。朝来防災の会の人たちも、はじめは難しい授業だったが、今は子どもたちに合わせてわかりやすく話してくくれている。付き合いを重ねると子どもたちへの接し方が変わってきている。市役所の防災担当の方々の意識も変わってきた。市役所主催の防災を考える住民の会でも、障害者の課題に言及してくれるようになった。学校が発信して地域が変わってきた。地域企業の協力も得られるようになった。もちろん、企業の発信力もアップするだろう。同時に、地域も育てる。コロナ禍にあっても学校、地域、企業、行政が連携してまちづくりをしていくことが今後の課題だ。

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