生活科、総合的な学習の時間で
ぼうさい甲子園への応募は、白浜小学校が当たり前のこととして取り組んできた防災教育の実践をまとめたものだ。その当たり前を評価してもらえたのはうれしい。受賞を知ったこどもたちは「おお、すごい」と喜んだ。先生方も、10年間継続してきたその重みを感じて充実感を持ったという。
10年前、東日本大震災にインパクトを受けた。学校は三河湾から約500メートルのところに位置している。他人事ではなかった。その年の4月に防災の取り組みを始めた。白浜小学校の防災教育では、地域で活動している防災ボランティアグループ「赤馬」の協力を得ることができた。学校は吉良上野介ゆかりの土地にあるが、吉良氏が赤馬に乗って地域を見回ったという話をもとにしたネーミングらしい。
それから10年継続してきたが、最初の5年は無我夢中で取り組んできた。今では防災教育のシステムが出来上がっている。6年間を通した学びを見通して学年ごとの授業内容を系統的に計画している。それをもとに1、2年生は生活科を中心に、3年生から6年生は総合的な学習の時間を使って「ふるさと学習」を行っている。その中心が防災だ。
自然の驚異と恩恵を学び、アウトプットも
白浜小学校は海に近い。津波が来れば水没してしまう。液状化現象もある。子どもたちがそういった負のイメージを持って怖がることは心の教育にマイナスに働く。災害よりもまずは地域のいいところや産業を学ばせたい。だからこれまで、災害に注意しながら、自分の命を守る教育、故郷を愛する気持ちをはぐくむ教育を実施してきた。例えば、4年生の学び。この地域はかつて塩の産地だった。昔ながらの塩づくりを体験している。3年生は、海岸、温泉、海水浴場、観光地、吉良の歴史などを調べる学習に取り組み始める。
吸収するだけではない。アウトプットも行う。防災集会を年に2回開いてきた。5月に開く集会で目標を決め、3月の集会で学年ごとに学んだことを模造紙などを使って発表する。1年生は学校の中の安全について調べ、校内探検で消火器や避難看板を探す。学年が上がると活動範囲がどんどん広がっていく。5年生になると地域のいろんな店舗、観光地、景色、由緒ある建物などを盛り込んだマップを作って発表する。おすすめスポットのパンフレットもつくる。
1学年1クラスで合計6クラスの学校規模なので、発表会では全員に役割が当たる。ところが、昨年、今年はコロナ禍でできなかった。だが、あきらめていない。
最終発表会はテレビ放送で行うつもりだ。実践を記録しているのでそれをもとに各学年がプレゼンテーションを作り、テレビで各クラスに流す。各教室では子どもたちがテレビを見ながら1年間の活動をまとめる。
2校1園の合同避難訓練
津波からの避難場所は3次まで考えている。グラウンドから近くの山に避難はできるが一晩泊るのは不可能だ。そこから山を越えて50メートルくらいの小高い丘に3次避難する。訓練では、そこまで1時間ほど歩いていく。今年は授業時間数確保を優先して訓練は中止した。そうなると、3年生以上の子どもたちは行ったことがあるので経路がわかるが、1,2年生は道を知らない。そこで、生活科の中で行う秋を見つける活動の時間を使った。避難場所までの経路は風光明媚で、秋を見つけに行く学習とかねて避難路を覚えた。担任には好評だった。小さい子どものペースで歩けるし、自然と防災の学習を兼ねて楽しめる。来年からは1、2年生はこの方式で定着させていきたい。3年生以上は従来通り、訓練で行う。
白浜小学校は11月の防災の日(西尾市全体の訓練の日)前後に、海沿いにある吉良高校と白浜保育園と合同で正法寺山に避難訓練を行う。大勢が複数のルートで登る。頂上は狭いが、少し移動すると西三河で有数の古墳公園がある。あわせて1,000人くらいは一時避難することが可能だ。階段は急だが、保育園児も登って行く。もっと小さい幼児は、高校生が抱いて登って行く。
例年だと、年間10回の避難訓練を行う。内容も変化をつけている。今年度はコロナの関係で省略したり中止したりしたが、止めずに繋いでいかないといけない。第1次避難場所のグラウンドから20メートル程度の里山である正法寺山に2次避難する。そこまでの避難訓練は良く行っているが、山が狭いのでぎゅうぎゅう詰めになる。そこで、広さを確保するために、職員、5,6年生で避難路を整備した。集まる場所で密集状態にならないように、草を刈って広げた。
新しい活動を生み出していこう
これまでずっと学校の活動を支えてくれた地域の方の活動が高齢化で難しくなった。コロナ禍で話をお聞きする機会もない。地域に支えられた10年だったが、地域との新しいかかわりの在り方を模索したい。
こういった実践を継続するためには無理をしないことが大切だ。常勤の職員は16人しかいない。様々な活動を活発に行ってきたが、裏返すと職員が多忙ということ。継続するためには活動の精選が必要となる。避難訓練も数をこなせばいいというものではない。登下校時の避難訓練や親子で一緒の避難、親子登校と授業参観もある。冬の寒いときに集団下校で山に逃げる訓練もしてきた。これらの訓練をうまくまとめて継続していける防災教育を行っていきたい。