研究室の紹介
2011年3月、東日本大震災をテレビや新聞などで目の当たりにした当時の研究室の先輩が「今年は防災教育をやりましょう」と発案し、研究室全体で防災教育への取組がスタートした。研究室の活動では「Footwork & Network」、「Challenge & Change」、「Response & Responsibility」を合い言葉として、どん欲に学び、行動する姿勢を大切にしている。「脅さない防災教育」の考え方を念頭に、これからの防災教育に貢献する「ものづくり」「場所づくり」「人づくり」の構築を目指している。
「魅力ある防災教材・防災プログラム」の開発・普及
我々の研究室が進めてきた取組の特徴は、幼稚園・保育園、義務教育段階、高校・大学、社会人向けと発達段階に応じた教材・プログラムの開発を行っていることにある。加えて、障がいを抱えた人たちや、外国籍の方々、高齢者や乳幼児といった「災害時要援護者」への防災教材の提供も手がけている。教育学部のモットーである理論と実践の往還を軸として、研究会を開催して専門的知識を学ぶとともに、被災地に足を運んだり、ボランティア活動に参加するなどして、フィールドワークをもとにした授業づくりを大切にしてきた。静岡県内の防災関係者や大学の専門家からも幅広い助言をえることで、より汎用性の高い教材へと仕上げ、トータル且つインクルーシブな実践を目指している。
Ⅰ.幼稚園・保育園,小学校低学年,特別支援学校向け
楽しく避難行動を身に着けてもらうための教材:防災紙芝居『みずがくるぞ!!!!』及び『ゆれがきたぞ』を制作し、これに防災ダンスや防災ゲームを組み合わせることによって学校の授業時間に応じたパッケージを提供している。同パッケージは静岡県、愛知県をはじめ東北各地や地域の防災センター、日本赤十字社でも活用いただき、「脅さない防災教育」、「心のケアとの両立を図った防災教育」として高く評価いただいている。
Ⅱ.小学校中・高学年,中学生向け
研究室の核となる活動は「道徳科」における防災教育である。災害時の思考力や判断力を高めることを目的として、実際の葛藤場面(ジレンマ)に焦点をあてた授業を開発してきた。これまでに授業案は30種類以上を提案している。授業実施にあたっては、1)防災の知識を知ること、2)じっくりと考えること、3)話し合いを通じて最善の判断を吟味すること、といった学習過程を大切にしてきた。児童生徒がこうした学習過程を経て、防災意識を高めるとともに、主体的・自律的な判断力の育成を目指している。同授業は「防災道徳」と名付けられ、すでに全国70以上の教育機関で導入いただいている。浜松市では教育委員会が製作した「浜松市版防災ノート」にも収録され、市内の全小・中学校に提供された。
Ⅲ.海外への発信
2019年度は、内閣府主催「世界青年の船」に参加したフランス・チリの若者らに向けた講座を担当したり、JICAによるトルコ防災関係者へのセミナーを実施したり、NHKの国際放送にコンテンツを提供するなど海外への発信にも力を注いだ。日本の災害や防災教育の取組を紹介することによって、各国の災害事情やリスク認知に関するディスカッションを行うなど、国際的な議論の場を創出している。その成果の一部を研究室の大学院生がドイツでの国際学会で報告し、国際ジャーナルにも掲載された。また、トルコ教育省の関係者がトルコ版『みずがくるぞ!!!!』を制作してくださり、トルコの学校にも研究室の取組が広く知られて交流が進んでいる。現在もオンラインやSNSなどによって国際的な連携や情報発信を継続しており、コロナ禍における「複合災害」への対応について情報共有している。
Ⅳ.地域社会向け
学校での実践だけでなく、地域で開かれる防災イベントなどにもブース出展し、防災啓発に取り組んでいる。毎年、夏や秋にお祭りなどで出店を開き、防災ゲームを体験してもらう「釣って踊って防災フィッシング」や防災キューブパズルなどを提案し、会場に訪れる親子に防災について考える機会を提供してきた。とりわけ、静岡市の「大浜ビーチフェスタ」や県立吉田特別支援学校の学園祭「もえぎまつり」では多くの来場者に参加いただき、地域のNPOや企業との連携も図られている。とくに静岡朝日テレビとの連携事業「アナウンサーと大学生による防災紙芝居読み聞かせプロジェクト」は県内各地で好評いただいている。
Ⅴ.オンライン防災への挑戦
2020年度は新型コロナウィルスの影響から、オンライン型の防災教育の実施・普及に重点をおいている。題材はコロナ禍での避難や地域連携といった「複合災害」対応を扱うもので、教室での三密対策として大学と学校とをオンラインで繋ぎながら、考えることを重視した双方向的な授業づくり試みてきた。なかでも、防災クロスワード・パズルを取り入れた「謎解き防災」授業や、道徳科で取り入れやすい心理的葛藤 (ジレンマ)場面を取り入れた「防災道徳カード~そんなとき君ならどうする?」などは新たな防災教育の可能性を示すものとして地元の新聞やテレビでも紹介いただいた。こうした教材開発にあたっては、慶應義塾大学大木聖子研究室の学生たちとも定期的に議論を重ねており、同研究室が提供しているリーフレット「#3密の避難所で役立つ7つの備え」をもとにして制作した防災絵本『エリーゼ もってる?』を小学校や保育園・幼稚園で普及を進めている。
1年間の活動記録
・避難行動と結び付けた「防災パッケージ」
県立御殿場特別支援学校 (高等部×1回)
県立藤枝特別支援学校(中等部×1回)
・「防災教育×SDGs」附属静岡中学校、東豊田中学校など(1年生×4回)
・「七夕豪雨」静岡市立清水第八中学校 (2年生×1回)
・「防災小説」静岡大学附属島田中学校 (2年生×4回)
・「外国人向け防災講座」内閣府世界青少年の船 (フランス・チリの若者計40名×1回)
・「謎解き防災」静岡大学附属浜松小学校 (3年生×2回)
・「コロナ禍の避難、君ならどうする?」掛川市立西郷小学校 (6年生×3回)
・「地域への貢献」吉田特別支援学校 (1回)
・防災研究会・シンポジウムの開催(5回)
・国土強靱化大臣との意見交換会への参加
次世代における「防災のリーダー」の育成
防災教材や授業の開発だけでなく、2018年度より次世代の防災リーダーを育てるプログラムづくりも力をいれてきた。過去3年間で愛知県や静岡県の高校生や学校関係者のべ1,250名に受講いただいた。プログラムを受講した高校生たちが独自の防災講座を企画・開催し、静岡県内の幼稚園・保育園など80か所以上で実践が進められている。
加えて、2019年度には大学内に新たなサークル「静岡大学学生防災ネットワーク」を創設し、「メンバー個人の防災力向上」「習得知識の地域への波及」という2つの目標を掲げて教育学部以外の学生も巻き込んだ活動を展開してきた。一人暮らしの学生向けに災害時に備えておくべき防災グッズを紹介した動画を作成したり、地域の消防団や新聞社と連携してイベントを開催したり、専門家を招いてシンポジウムを開催するなど、地域を巻き込んだ活動となっている。これらの活動成果が認められ、同団体が「第36回中日ボランティア賞」を受賞し、内閣府が主催する「世界津波の日」座談会に招待され、国土強靱化大臣と地域防災について意見交換を行う機会もいただいた。
メディア掲載
ウェブ記事
NHK静岡「小学校でコロナ禍の防災対策学ぶ」(2020年9月1日)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/shizuoka/20200901/3030008318.html
静岡新聞「コロナ禍の避難、何が必要?」(2020年7月26日)
https://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/bosai/790743.html
※ほかについては別紙をご活用ください。
これまでの実績
2013年1月 「1.17防災未来賞 教科アイディア賞」(ぼうさい甲子園)
2015年1月 「1.17防災未来賞 優秀賞」(ぼうさい甲子園)
2016年1月 「1.17防災未来賞 ぼうさい大賞」(ぼうさい甲子園)
2017年1月 「1.17防災未来賞 ぼうさい大賞」(ぼうさい甲子園)
2018年1月 「1.17防災未来賞 ぼうさい大賞」(ぼうさい甲子園)
2018年3月 「学長表彰」(静岡大学)
2019年1月 「1.17防災未来賞 優秀賞」(ぼうさい甲子園)
2019年3月 「学長表彰」(静岡大学)
2019年10月 「第36回中日ボランティア賞」
2020年1月 「1.17防災未来賞 優秀賞」(ぼうさい甲子園)