山崎高校が防災活動を始めたのは2012年度(平成24年度)の終わり、2013年3月のこと。それ以来、「生活創造科」の生徒が中心となって、学科の特徴を生かした防災活動を展開してきた。得意の調理を使った炊き出しやコロナ対応レシピの開発、医療従事者へのメッセージ、地域の要援護者との交流、・・・。その活動は「地域」と「得意技・専門性」をキーワードにしていると言える。 臨時休校中も、自分たちの専門性を生かして新型コロナウイルス感染症にどう向き合うかを考えた。「コロナに負けない栄養のとりかた~植物の力でより健康に」「発酵食品で免疫力アップ」はその集大成である。 地域とのつながりを活動の中心としてきたが、今はできない。その課題をどう克服するかが大きな課題だ。生徒たちは医療従事者や地域の要援護者へのメッセージを発信して、対面できなくても繋がり続けることができる活動を模索している。 コロナだからできないではなく、コロナでもできるとりくみを繰り広げている。
700人分カレーを作ってみた
生徒企画の防災体験活動スタート
大量の豚汁を炊き出し
体育館で避難所設営訓練も実施
心肺蘇生法の指導もクラブ員が行う

兵庫県立山崎高等学校

はじめは炊き出し体験

 防災に初めて向き合ったのは、2013年(平成25年)3月11日。に炊き出しの「真似事」をした。「生活創造科」の生徒たちが「何かを始めてみよう」という気持ちでとりくんだ。700人分のカレーを作り、全校生と地域の方々に振舞った。

 生徒の感想文を読むと、生活創造科の生徒たちには訓練になったが、他の生徒たちはただ食べただけだったようだ。地元の宍粟防災センターでアルファ米をいただいてデモンストレーションも行ったが、地域住民と一緒に食べて、それだけ。不完全燃焼のもやもや感が生活創造科の生徒たちに残った。

「地域の生活文化」での学びが始まる

 生活創造科の生徒は2年次に「地域の生活文化」という学校設定科目を学んでいる。時間割は金曜日の5、6時間目で、時間延長や校外学習をしやすい。科目のメインテーマは「地域」とした。地域を知り、学びを地域に発信する。

 全国の高校の家庭科には「学校家庭クラブ」という学習活動がある。山崎高校の学校家庭クラブも、地域の生活文化と同様に、学びを家庭や地域に活かすという目標を持っている。

 同校の活動のエンジンは、この「生活創造科」の生徒たちだ。

 初年度は炊き出しだけではなく全校生への講話も取り入れたが、全校生の学びにつながらなかったかも知れないと感じた生活創造科の生徒たちは、翌2013年(平成25年)9月から、普通科の生徒たちも学べるプログラム作りに本腰を入れた。

広がるアイデア

 生徒たちのアイデアは、前年度にとりくんだ炊き出しはもちろん、普通科生徒が非常食づくりにとりくんだり、避難所を設営したりする体験にも広がった。生活創造科の生徒たちの依頼を受けて「森林環境科学科」の生徒は得意の木材加工の技術を生かして、避難所のパーテーションを作った。それぞれの学科の特徴を活かした活動が動き出した。

 それから毎年続くバージョンアップの原動力は、生徒たちの発想だ。授業で話し合ってどんどんアイデアを出している。

 山崎高校の防災イベントは12月の期末考査の後に行われる。山間部にある山崎町はとても寒い。参加者からはもう少し暖かい時期にして欲しいという要望もあるが、「阪神・淡路大震災は1月17日、東日本大震災は3月11日、どちらも寒かった。災害は冬でも発生する」との理由で寒くてもがんばっている。

 生活創造科の授業でイベントに向けて本格的にとりくみを始めるのは2学期から。ただ、インターンシップなどの大切な実習もある4月から徐々に始めて、9月にギアアップする。生徒たちは1年生の時にこの行事に参加し、先輩の2年生の活躍を見て記録を残している。2年生の補助スタッフとしての経験もある。その体験の蓄積を使って「地域の生活文化」で行事をデザインしていくのだ。

みんなの避難を考えよう

 今年のテーマは「みんなの避難を考えよう」とした。2015年度(平成27年度)、兵庫県立大学と共同で地元自治会の災害時要援護者リストを作った。生徒が該当者の家庭を訪問して話を伺った。ぼうさい甲子園では、このとりくみで初めて優秀賞をいただいた。翌年には防災マップにもとりくんだ。ただ、こういった情報は絶え間ないリニューアルが必要だ。

 だから今年は、授業で先生と生徒たちが話し合い、高齢者や障害者、妊婦、赤ん坊のいる人、病気の人、そんな支援を必要とする「みんなの避難を考えよう」と思っている。

コロナ禍の避難所、コロナに負けない食を考えた

 今年は新型コロナウイルス感染症が学校教育を大きく変えた。これからもその影響を避けて通ることはできない。コロナ禍での避難所についても考えて行きたい。

 3年生の選択科目では栄養を学んでいる。臨時休校中に、コロナに負けない栄養の摂り方を考え、免疫力を高めるレシピを考える課題が出された。この授業の選択者は16人。みんな一生懸命にレシピを考えた。学校が再開されると休校中に各自が考えた内容を共有した。

 学校が6月に再開されてから実習の時間に実際に調理した。本当はいろんなアイデア料理を試食して相互評価したかったが、それは断念した。ただ、休校中の自主学習と学校再開後の学習、実習のインプットを冊子「コロナに負けない栄養のとりかた~植物の力でより健康に」「発酵食品で免疫力アップ」という冊子にまとめた。生徒たちのアイデアが詰まったレシピだ。

 ただ、家庭科は実習が多い。調理室はエアコンがなく、マスク着用なのでとても暑い。実習ではこまめに水を飲むようにしている。敵は新型コロナウイルス感染症だけではない。熱中症にも気をつけたい。アルコール消毒などを頻繁におこなわなければならない。これはパソコンを使った授業も同じだ。

地域でコロナと戦う人々へのメッセージ

 生活創造科では、1~3年生全員が休校中、医療従事者への感謝、応援のメッセージにもとりくんだ。各自が書いたメッセージカードを家庭クラブの代表が貼り合わせて大きなメッセージポスターにして、地元の宍粟総合病院に届けた。

 地域高齢者との交流も対面回避を理由にできなくなった。それでも休校中に高齢者宅への応援メッセージ書いて、社会福祉協議会の方に届けていただいた。

 こんな活動をしていると、生徒たちも先生方も元気になるという。

 「こども防災ガイド」という冊子も作った。2年生が防災体験をして3学期にまとめたものだ。配布しようとした矢先に新型コロナウイルス感染症による制限が広がった。今後、宍粟市内の幼稚園に配布したい。この冊子づくりの過程では、子育て中のママさん防災士の話を聞いて学習し、それを自分たちの言葉でアウトプットした。

例年のとりくみ継続と人との付き合いの確保

 昨年から行っている長野のリンゴ農家を支援する「りんごプロジェクト」も9月30日から始める。

 1年に3回開いている高校生レストランはとても好評で、広報されると予約が殺到していた。今年はできるかどうか、不安だ。

 生徒たちはイベントを通して学んでいた。そのイベントが、新型コロナウイルス感染症の影響で無くなった。先生方は、その代わりになる機会を作りたいと奮闘している。

 山崎高校は、人との付き合いを大切にしてきた。普段の付き合いが防災で生きるからだ。地域とのコミュニケーションを大切にしていたが、そこが難しくなった。どう克服していくか、大きな課題だ。

休校前後の動き

2月27日(木) 首相による休校要請
3月2日(月) 生徒登校日
3月3日(火) 臨時休校 Google Classroomを使って生徒との連絡。
       生徒は課題を受け取り学習。
       調理実習の映像を教員が撮ってそれを観て生徒が実習。
4月 入学行事は来賓なしの短縮で、始業式も屋外で広がって実施。
5月 登校可能日を設けた。
6月1日(月) 学校再開
6月の最初の2週は生徒を半分に分けての分散登校。第3週から平常授業へ。

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