ライフマネジメントクラスの生徒が見て学ぶスタイルの防災学習にとりくむ。 新型コロナウイルス感染症の影響下ではあっても、発信型の活動は続けている。小中学校への出前授業はオンラインで実施した。醍醐寺から文化財を避難させる地元の防災訓練にも参加できなかったが、学習の成果を壁新聞にまとめて地区の防災訓練で紹介。交通安全のCM制作や学校の防災訓練の企画・提案などにもチャレンジしている。 生徒だけではなく先生方もがんばっている。京都の歴史と文化を取り入れた授業を考案した。生徒たちは鴨長明の方丈記を読み、消失範囲を推測して京都の地図に落とし込んでいく。都の3分の1を焼き尽くした火災の大きさに驚く。 ライフマネジメントクラスの防災学習が始まって3年目となった。卒業生が在校生を支援するサポーターの制度も作った。コースと教科での学び、地域とのかかわり、本物と出会う場の創造…。東稜高校は、防災教育とはどうあるべきかという本質的な問いに向き合っている。
方丈記から学ぶ災害の歴史
文化財保護学習
マンホールトイレ上屋づくり
伏見区総合防災訓練
生徒会企画医療用ガウン作り

京都府立東稜高等学校

歴史と文化の町で本物に出会う

 京都府立東稜高校の防災教育の原則は「実見」だ。実際に見て学ぶ。
 5月の校外学習では、神戸にある人と防災未来センターで語り部の体験談や写真、映像、実物から学ぶ。午後は神戸学院大学現代社会学部を訪れて社会防災学科の先生の講義を聞く。

 京都市市民防災センターでの災害体験学習や関西電力、大阪ガスによるエネルギー学習、災害ボランティアや地震に強い住宅のメーカーによる学習、さらには大学との連携授業など、専門家をフル活用している。生徒たちには本物に出会う場所が常に用意されている。

 学校は伏見区にあり歴史と文化に包まれている。災害の歴史を古典から学び、寺院の文化財保護学習にも取り組んでいる。

 地域の小学校と中学校への出前授業にも取り組んできた。避難所運営ゲーム(HUG)ではマネジメントクラスの生徒が1年生を指導する。教える側に立つことが学習の深化につながっていく。
 特徴的な学習スタイルが、新型コロナウイルス感染症の影響で止まってしまった。

休校中は防災学習の予習

 長期にわたる休校中、生徒たちは2週間に1回設定された課題提出日に時間差で登校し、担任の先生と話をした。
防災を学ぶライフマネジメントクラスは2年生からスタートする。4月に予定していたオリエンテーションを実施できず、5月に入って遠隔で行った。

 すべての生徒がいつも遠隔のやり取りに参加できるわけではない。Wi-Fi環境の違いもある。できるだけ全員に情報が行き渡るように、必要な情報はYouTubeを使ってクローズで発信した。

 休校中は、新型コロナウイルス感染症への意識調査を実施した。登校日に生徒たちはマスク着用の時期や不安を感じ始めた時期、自分でできること、家族でできることなどのレポート課題に回答した。学校再開後には感染症の歴史を学ぶ授業を行い、授業の予備調査と位置付けた。

ライフマネジメントクラスの生徒が防災学習の主役

 東稜高校の生徒たちは、1年次には総合コース(標準と発展各2クラス)とキャリアコース(2クラス)に分かれて学ぶ。2年生からは進路や関心に応じて、アカデミーコース(1クラス)、総合コース(2クラス)、キャリアコースのライフマネジメント、ライフスポーツ、ライフサポート(各1クラス)に分かれ、より専門的な学びを3年生まで続ける。防災を学ぶライフマネジメントクラスは、今年で3年目を迎えた。

 2年次の「防災と環境」「環境と情報」、3年次の「ライフマネジメント」「実践マネジメント」の4つの学校設定科目がアクティブな学びの場となっている。
 例えば、3年生の実践マネジメントの授業では生徒たちは5チームに分かれて提案型の学びにとりくんでいる。

「小・中学校の出前授業チーム」は、例年は訪問して授業を展開していたが、今年はオンラインを活用して地域の小学校の避難訓練の際に、火災について考えるワークショップを実施した。

「防災家族会議チェックシート作成チーム」は、災害時の家族の絆を強めるために家庭で話し合ってもらう材料を作って配布した。

「歴史防災探究チーム」はこれまで地元の北醍醐地区の総合防災訓練に参加し、自分たちのとりくみを発表してきた。今年は壁新聞を貼り出して紹介する。

「自転車交通安全CMコンテスト作成チーム」は、自転車マナーの啓発動画を作成し、KBS京都テレビのコンテストに応募している。

「避難訓練計画チーム」は、学校の避難訓練を計画・提案している。今年は、放火犯を想定した避難訓練を実施し、その後、調べ学習の内容を全校生徒向けに発表する。学校近くに京都アニメーション第1スタジオがあり生徒たちの「放火」への関心は高い。

先生が工夫する授業も

 学校設定科目での学びに教科書はない。担当の先生が工夫して実施している。例えば、地歴公民科の先生は鴨長明の方丈記を防災授業に取り入れた。生徒たちは方丈記を読んで消失範囲を推測し、現在の地図に落とし込んでいった。全国に残る災害モニュメントの地図記号「自然災害伝承碑」も学習した。教科と防災を繋いだアイデア満載の授業だ。

GIGAスクールにも対応した防災教育を

 GIGAスクールに向けた準備も進んでいる。ICT化の工事が終了し、タブレットも導入することになった。民間が運営する教育プラットフォーム“Classi”を導入した。2年生の「環境と情報」で活用し、防災に関するテーマを設定し防災ジャーナル『マネ知識』として、全校生徒、保護者向けに配信している。配信前にはライフマネジメントクラスの生徒が全クラスの朝のHRで広報活動を行った。

他のコースへの波及

 3年目に入って、担当の先生方は手ごたえを感じているという。生徒たちにコミュニケーション力が付いたのが大きい。卒業生によるサポーター制度も創設した。現在、数名が希望し登録しているが、コロナ禍の中、十分な活用ができていない。

 ライフマネジメントクラスの生徒と他のクラスの生徒との交流も進める。各コースと連携した横断型授業や、生徒会と看護・保育・福祉分野について学ぶライフサポートクラスとの共同企画として医療用ガウンづくりを行い、地域の医療機関に届ける活動も行った。

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