和歌山県の中部に位置し、南海トラフ巨大地震では甚大な被害が想定されている。古くから津波防災の学習をはじめ、ぼうさい甲子園でも常連校として多くの賞を受けてきた。 防災学習は3年生の総合的な学習の時間を使う。生徒たちは、災害時要援護者の支援や小学生への紙芝居の読み聞かせなど、自分たちを支援者と自己規定してとりくみを進めている。 今年度の防災学習のテーマは避難所とした。宿泊での避難所体験訓練も行う。夜間避難訓練も兼ねている。避難所での感染症対策も体験的に学ぶ。 今後、学校はますますICTの需要が大きくなる。将来を見越してYouTubeで動画をアップし、生徒たちの視聴環境を調べた。Wi-Fi環境の差やPC、タブレットを持たない生徒の多さなど、課題が見えてきた。 町役場や社会福祉協議会の建物が高台に移転し、若い人も高台の新興住宅地に家を建てるようになり、高齢者だけが取り残されている。中学生が地域防災力向上の起爆剤となるように、これからも地域とつながってとりくんでいく。
小学校おすそ分け講座
印南湾における津浪の挙動(PC)
印南湾における津浪の挙動(実験)
紙芝居製作
車椅子避難

印南町立印南中学校

早くから防災教育を始めた

 印南町は和歌山県の中部に位置し、太平洋に面している。その立地から南海トラフ巨大地震による津波の被害は免れない。そのため、印南中学校では教科で津波を学ばせてきた。2007年(平成19年)には選択理科での「印南湾における津浪の挙動」研究が全日本学生科学賞を受賞するなど、津波防災学習の歴史は古い。

 ぼうさい甲子園には、津波研究班や3年生の総合的学習の時間を使った質の高い防災教育で応募を続け、毎年のように受賞してきた。

新型コロナウイルス感染症を念頭に置いた防災教育

 休校中は先生方が家庭訪問をして学習プリントを手渡した。教科の学習がメインだが、新3年生は避難所を学ぶ予定なので、関連のプリントも配布した。担任と学年主任、学年付きの先生方が手分けして週に1回は訪れていたという。電話も毎日のようにかけてコミュニケーションをとった。

 6月には学校が再開された。現在、2年生と3年生は18人ずつの2クラス、1年生は35人の1クラス規模の小規模校だ。1年生も密を避けるために2つに分けて2教室で学習している。学年集会は再開しているが、まだ全校集会は開いていない。

 避難訓練は密集を避けるためにシェイクアウトに留めている。緊急地震速報を鳴らして、机の下に隠れる訓練だ。避難経路はマップを使って机上学習とした。例年、年に3回の避難訓練を行ってきたが、今年はまだ1回しか実施していない。

避難行動と避難所を考える

 次回の避難訓練は11月5日の世界津波の[1]の予定だ。防災教育とセットで行い、3年生が防災紙芝居を全校生徒に読んで聞かせる。

 現在の防災教育は総合的な学習の時間をメインに使って実施している。自由研究の延長線上にある学習で、最上級生の3年生だからこそできると言えよう。いくつかのテーマを準備し、グループでとりくませる。2014年度までは防災以外のテーマにもとりくませていたが、2015年度から津波防災という大きなテーマに一本化した。その中でサブテーマを決めて学習を進めていく。今年度は避難所が大きなテーマだが、生徒たちは与えられるテーマを研究するだけではなく、自分たちからも新たなテーマを提案している。

 例えば、学校から避難場所に移動する訓練だけではなく、町中避難訓練と称して登下校時や放課後など、学校にいない時間帯を想定していろんな場所から避難する訓練も行っている。車いすを使っている障がい者など、素早く逃げられない人のことを考えて、実際に車いすに乗って避難する体験も計画している。避難行動要支援者の支援を考えようという生徒たちからの提案だ。

 今後、宿泊の避難所体験訓練を行う。新型コロナウイルス感染症の影響もあるが、感染予防も避難所運営の学習の一環として徹底する。これまで講義形式の学習は積み上げてきているが、実際の宿泊体験を通してより実感を持って避難所について学ぶ姿勢を涵養するつもりだ。

 プログラムはほぼ決まっている。午後、車いすを使った避難などを体験する。その後意見交換をし、いったん解散して帰宅する。夜、地震が発生したと仮定して指定避難所に集まってくる。夜間避難訓練だ。感染予防も視野に入れているので、女子生徒は広間に間仕切りを作って寝る。男子生徒はひとり1張りのテントを使う。町が訓練のためにテントを購入してくれた。

 夜と朝の2階、ワークショップを行う。プログラムは生徒が考える。地域の人にも来てもらう予定だ。

地域の防災力アップの原動力になりたい

 3年生が地域の津波被害を題材に紙芝居を作った。対面での読み聞かせはしにくいが、動画にして地域に広めたい。役場はすでに高台に移転している。若い人も家を買うときは高台の新興住宅地を選んでいる。結局残されるのは高齢者だ。地域では小学校も中学校も防災教育に熱心だ。津波防災を学んだこどもたちが大人になって地域の防災力を向上させていくのではないか。印南中学校の卒業生で役場に就職した者もいる。若い世代の活躍に期待したい。

GIGAスクールをにらんで

 8月の終わりに、第2波での休校を想定して3分動画をすべての教科で作成した。YouTubeにアップして生徒に視聴させた。オンデマンドの学習の予行演習だが、家庭での視聴環境の調査も兼ねている。3分の1の生徒はスマホで視聴していた。YouTube の視聴はできたが、PDF教材を開けない生徒もたくさんいた。ICT教育の課題が見えてきた。

 今後、GIGAスクール構想が進んでいく。ひとりに1台、タブレット型パソコンが貸与される。先ずは3年生から始まる。家庭に持って帰って学習に使用することもあるが、課題は家庭のWi-Fi環境だ。印南町は、個人がカメラ付きのPCを購入したり、Wi-Fiを設置したりすると、町の予算で5万円の補助を行う。

 ICT化は新しい流れが生み出されていくきっかけだと前向きにとらえて、環境の整備と教材や指導法の研究が必要を進めたい。


[1] 平成27年12月、国連総会で制定された。1854年(安政元年)11月5日、安政南海地震の時の濱口梧陵の「稲むらの火」にちなんだもの。

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