新庄中学校は防災教育の老舗であり横綱だ。総合的な学習の時間で始めた「新庄地震学」は今年で20年目を迎える。3年生がいくつかのグループに分かれてテーマ別に防災の学習と地域との交流、発信にとりくむ。 学びのスタイルは明快だ。学んだ内容を「見える化」して地域へ投げかけていく。 各家庭の非常用備蓄の量をアンケートで調べ、学校に備蓄すべき量と質を提案する。災害時に外国人が困難に直面すると考え、支援のカードを作成する。既存の非常食の調理ではなく、非常食そのものを作ってみる。できれば畑も耕したい。災害で断水しても困らないように浄水器を作る。災害用伝言ダイヤル171のテーマ曲をダンスで広める。アイデアはいっぱいだ。 ただ、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で地域との交流機会が激減した。2年生のキャリア教育も危機に直面している。それでもできることを模索して、地域とのつながりは保ち続けようとしている。
社会・保体班 第74回体育大会 防災種目「復興を願って」
外国語班 コミュケーションカード1
技術・家庭班 「畑を耕そう」
外国語班 コミュケーションカード2
文化祭・地震学発表会

田辺市立新庄中学校

20年目の「新庄地震学」

 「和歌山の災害は?」と問われると南海トラフ巨大地震による津波を思い浮かべる人が多いだろう。新庄中学校のある田辺市は太平洋に面し、最悪のシナリオではマグニチュード9.1、最大津波高は12メートルに達し、津波到達時間15分といわれている。市街地が1メートル以上浸水するのに15分から25分と想定されており、どれだけ早く避難できるかが命を左右する。

 新庄中学校が総合的な学習の時間を防災学習に充て、「新庄地震学」にとりくみ始めたのは2001年(平成13年)。今年で20年目を迎える。スタート時、総合的な学習の時間を使って防災教育を実施する学校は全国に皆無だった。新庄中学の防災教育は日本の防災教育の在り方、可能性を示し続ける存在であり続けた。

 「新庄地震学」にとりくむのは3年生だ。1年生の時に「ふるさと学習」を行い、地域の人々とかかわりを持ちながら故郷の良さを学ぶ。2年時には「職場体験学習」で地域の方々とのつながりを強固にする。そうやって防災に必要な地域との関係をしっかりと築いて、最後の学年でいよいよ「新庄地震学」にとりくむのである。

2年間の地域での学びの集大成を3年生で

 防災学習のテーマは一昨年が「ファーストアクション~逃げ切る~」、昨年が「セカンドアクション~命をつなぐ~」で、今年度は「サードアクション~未来につなぐ~」とした。地震発生から津波の襲来を生き延び、復旧・復興を成し遂げ、次の世代が災害に備えるようにという意思が込められている。

 3年生41人は「社会・保体」「外国語」「技術・家庭」「理科」「音楽」の5つの班に分かれて防災を学び、学んだ内容を地元に発信していく。

工夫を凝らした学びとアウトプット

 「社会・保体班」はアンケートを通して地域の不安や疑問をつかむ。田辺市への聞き取り調査などで不安解消、疑問への解答を探し、住民に提案していく。ただ、新型コロナ感染症のため対面のアンケートが実施できなかったので、保護者にアンケートをお願いした。家庭の備蓄量がわかれば、学校の備蓄の適量がわかる。これから分析し、まちづくり課に投げかけたい。

 体育大会は規模を縮小して実施したが、防災種目を取り入れた。20キロのコンテナを運ぶ競技だ。20キロは田辺市が推奨している非常持ち出し品の総重量だ。それを運び(ファーストアクション)、非常食を避難者に届け(セカンドアクション)、復興を願って紙飛行機を飛ばした(サードアクション)。

 「外国語班」は外国人が災害時に困ることを調べ、自分たちでサポートできるように「コミュニケーションカード」を作成した。クレジットカードの大きさで財布に入れて持ち運びできる。名前や出身国を書き込み、必要なものは指さして伝えることができるように工夫した。ネイティブチェックをしてくれたアイルランド出身の国際交流員も、日本の災害の多さには驚いているという。

 「技術・家庭班」は非常食づくりにとりくむ。ドライフルーツ、乾パン、肉の塩漬けなどを作る。レシピも生徒たちが調べる。今後、土地を耕して野菜を育てる予定だ。

 「理科班」は災害で断水しても困らないように、身の回りにあるものでおいしい水を作る。鍋を使った蒸留器やペットボトルにカット綿や小石、砂などを入れたろ過機を作り、どんな時でもきれいな水が手に入るようにする。

 「音楽班」は伝言ダイヤル171の広報にとりくむ。「171」のテーマ曲に、ダンスをつける。もちろん、171の使い方を調べて詳しく伝えることは忘れない。11月22日(日)に文化祭がある。保護者も参観できるようにするので、ここで発表したい。

新しい風を吹かそう

 20年目を迎えて、「新庄地震学」に新たな視点を取り入れようと考えている。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、外に出て地域と交流するとりくみがこれまで程できていない。それでも、6月の学校再開以来、徐々に活動の範囲を広げている。

 今年の2年生のキャリア教育では、オフィスメイト株式会社、地域町づくり会社南紀みらい株式会社の協力で弁当の企画・販売を行う計画を立てている。弁当の企画を通して地域の特産物を知り、販売実習を通して仕事をすることの意味や自分のキャリアを見つめる機会としたい。もちろん、災害時の非常食も視野に入れている。

生徒たちのコミュニケーション力を育てなければ

 長期休校中はプリント学習と家庭訪問による面談と課題回収で乗り切った。遠隔での授業はしなかった。家庭のインフラに差があるからだ。

 6月の再開後、3日間は午前中の短縮授業とした。給食が再開されないので、4日目からは弁当持参だ。

 生徒たちは、部活がなく、外にも出られなかったので辛かっただろう。中体連の大会も中止となったが、校長会主催で夏に代替の競技会を開いた。

 今、全校生徒は110人。全員にタブレットを持たせることになるが、管理は大変だ。今のネット環境で大丈夫なのか、整備しなければならないのか、やってみないとわからない。

 ただ、ICTのスキルは必要だ。新型コロナウイルス感染症の影響で人と接する機会が減ったため、生徒たちのコミュニケーション力に不安が出てきた。課題と受け止めてしっかりと対応していきたい。

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