高田一中が今の新しい防災教育にとりくみだしたのは4年前。それまでは復興教育とこころのケアが中心だった。これからは東日本大震災を体験していないこどもたちが入学してくる。震災を伝えることと災害を生き延びる力をつけることの両方が大切だ。 4年前に防災学習ノート「まもるくんノート」を独自に作り、月命日には岩手県の副読本と一緒に活用して防災を学んでいる。総合的な学習の時間にも防災を取り入れ、各学年でテーマを決めて体験的な学習を進めている。12月11日には全校集会で自分たちの学びを発表する。1年生にとっては上の学年の活動を知りこれからの学びの指針になる。3年生にとっては学びの集大成である。 311には集会を行う。まだ、震災の影響は大きい。辛い思いをする生徒たちへの配慮も必要だ。震災10年を迎え、生徒たちは思いを作文にしたためた。素敵な文章が集まっている。
毎月11日(月命日)のまもるくんの日。防災学習ノート「まもるくんノート」を使って学習中(令和元年度の写真)
一年間の防災学習の成果を発表する「つなぐ集会」で、今年の学習成果を発表し合います。
自作の防災ソングに合わせて踊るダンスの決めポーズを練習中。動画を作成し地域に届けます。
学習の成果をまとめた大きなポスター。町のショッピングセンターに掲示し地域の人に伝えます
1年生で初めて体験するHUG。ゲームなのに大変・大混乱!もしもの時は、どうなるのだろう・・・?(令和元年度の写真)

陸前高田市立高田第一中学校

「まもるくんノート」で防災学習

 受賞はまず驚いた。それから嬉しかった。今までやってきたことへの評価をしていただけた。野球では難しい甲子園に防災で行けたと喜んだ。自信になった。

 防災のとりくみは今年で4年目になる。4年前までは復興教育とこころのケアが中心だった。復興教育はもちろん大切だが、これからは自分の命を守る力をつけること、この町のありようを伝えることも必要になってくる。今の中学3年生が1年生の時から新たなとりくみを始めた。

 新しい防災教育は、アクサ ユネスコ協会の減災教育プログラム[i]に参加したのがきっかけで始まり、本年度で3年目になる。生徒会も熱心に活動を始めた。生徒から防災キャラクターを募集して「まもるくん」に決定。防災学習ノート「まもるくんノート」を作り、イラストは生徒が描いた。3年間で総合的な学習の時間に位置づけていった。全体のテーマは「郷土を愛し郷土を支える人材の育成」とした。さらに、毎月11日の月命日を「まもるくんの日」にして全校で防災学習にとりくんでいる。

3学年を通して系統的に学習

 1年生で郷土を知る学習を始める。震災前と震災後の陸前高田のまち、そして今日までの歩みを学ぶ。HUGや非常食、サバイバル飯、ビニール袋での炊飯などの体験も含めて年間15時間をかけている。

 2年生のメインの活動はマイタイムラインとハザードマップづくり。避難経路を親子行事で歩く(今年はできなかった)。広報にも力を入れ、防災ソング、防災合言葉を載せたチラシを作っている。地域に発信するだけではなく友好都市である名古屋の中学生や支援者との交流にも活用したい。替え歌の防災ソングやダンスも取り入れ、楽しくやっている。

 3年生は1年生の時に実施したHUGを深める。同じHUGにとりくんでも2年間の学習の積み重ねがあり、考え方、感じ方が違う。今年はコロナ禍を想定して実施した。大人がいない中で中学生が運営側になるという想定にした。今年は講師も地域の方々も招けなかった。東日本大震災の時、学校は避難所として大切な機能を果たした。その経験を学び、防災倉庫を点検し、特別な配慮が必要な人をどう支援するかを考えた。

 12月11日には各学年の活動を持ち寄り、つなぐ集会を開いている。毎年テーマを決めて大切な話を聞く。去年は水の大切さがテーマで、今年は養護教諭が感染予防を話した。話を聞くだけではなく、学年や生徒会の代表生徒が防災学習のとりくみを発表する。1年生にとっては予習であり目標設定になる。3年生は振り返りの意味がある。昨年までは地域の代表や有識者が来て生徒の発表に講評を寄せてくれた。

防災学習と震災体験への配慮

 3月11日には集会を開く。ただ、生徒たちの被災を配慮して、あまり深く入り込まないようにしている。震災から10年経って、生徒たちはその時のことをぎりぎり覚えている世代だ。両親を亡くしている生徒もいる。あまり衝撃的な映像は見せられない。多くの生徒はあの時の記憶が無いというが、学習を通して当時の被災の状況や長期にわたる支援の様子を知り、「守られてきたんだ、だからがんばろう。」という生徒もいる。生徒の顔色が変わるときもある。気持ちが辛い時は部屋を出ても良いなどの配慮もしている。

 高田松原にできた東日本大震災津波伝承館には3年生は、まち歩きで、2年生の親子行事で行っている。ただ、辛い生徒は無理しなくても良いという配慮もした。

 今は震災体験をつなぐことと配慮の両方が必要だ。これからは震災を知らない生徒が入学してくる。過度には教えないがすべてを避けてしまうと自助の力がつかない。

 来年はコロナ禍でどうなるか予測がつかないが、今年度までの活動を柱に進めていこうと考えている。生徒たちにアンケートを取ってみた。小学生にも自分たちが学んだことを伝えたいという生徒もいた。自分たちは深く学べているが、震災を知らない生徒にも学びをつなぎたいという願いが生徒たちにはある。高齢者への啓発活動にもとりくみたい。生徒たちは津波だけではなく洪水、土砂災害なども更に深く学習したいようだ。町はかさ上げをしているので津波よりも土砂災害が心配だという家庭も多い。

震災、コロナ禍を乗り越えよう

 アクサ ユネスコ協会の減災教育プログラムでも勉強してきた。夏には宮城県の気仙沼や石巻の大川小学校、仙台などを訪れた。冬は東京で学びあった。ぼうさい甲子園で活躍している徳島県阿南市の津乃峰小学校や宮城県仙台市の七郷小学校とも一緒に学んだ。

 神戸にも行き、東遊園地の希望の灯を訪れてきた。陸前高田市にも希望の分灯されている。今年は、コロナ禍で兵庫に行って学ぶ機会を逃し、とても残念だ。

 震災から10年を迎える。生徒が震災10年に向けて今の気持ちをまとめてみた。素敵な作文がいっぱい集まった。「私たちは辛い震災を乗り越えて10年頑張ってきた。いま、コロナを乗り越えてこそ本物だ。」というのは、ある生徒の言葉だ。


アクサ ユネスコの減災防災会議 https://unesco.or.jp/gensai/

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