学校は海から2キロ余り離れているが、地震が発生すれば津波と液状化が懸念される地域に立地している。7年前から防災教育を始めた。各学年が生活科(1、2年)と総合的な学習の時間(3-6年)を使って防災を体験的、総合的、継続的に教える。学年の重複を調整して6年間の一貫した防災教育のカリキュラムを構築するのに6年を要した。年度末には教材や成果物を次の学年に引き継ぐ。教職員のバトンタッチだ。 学習の視点は、学年が上がるにつれて、身の回りから学校内、通学路、地域へと広がっていく。家の中の危険個所探し、校内探検、町探検など、子どもたちの観察眼を育てる活動が続く。自治会や防災ボランティア、NPO、行政などの外部講師からも学ぶ。子どもたちは学習した内容をまとめて、次の学年の子どもたちに向けて発表する。子どもたちのバトンタッチだ。 「被災しても追い詰められた状況であっても思いやりの心を失わない子ども」に育ってほしいという願いが込められた6年間の防災教育である。
防災町探検(5年)
防災マップ作り(5年)
地震のメカニズムを学ぶ(4年)
避難所設営訓練(6年)
防災バトンタッチの会(全学年)

西尾市立一色中部小学校

防災が必要な地域

 子どもたちには一斉放送で受賞を知らせた。教室でテレビを見ていた子どもたちから拍手が沸き起こった。もちろん、教職員の喜びもひとしおだ。実践が認めてられたという価値は何物にも代えがたい。

 学校は三河湾の近くに位置している。一色地区は海に面しており、学校まで2キロ余りあるが、標高が低いので津波が来襲する恐れがある。地震の揺れによる液状化も懸念され、地区全体で防災の意識が高まってきている。学校では7年ほど前から防災教育に力を入れ始めた。当時の校長が、この地区だからこそ防災にとりくもうと号令をかけ、学校を上げてのとりくみを開始した。

 3年生から6年生は総合的な学習の時間、1、2年生は生活科で防災学習を展開している。去年、6年間のカリキュラムの全体像が完成した。実践を積み重ね、各学年の内容の重複を調整して再編成するのに6年を要した。

身の回りから地域へと防災学習の幅が広がっていく

 1年生は校内の危険を探す。校内を探検して倒れるもの、落ちるものなどを見つけ、危険印のシールを貼っていく。子どもたちから校務主任に危険箇所を報告し、改善してもらう。子どもたちの目の前で家庭科室の食器棚のガラスに飛散防止フィルムを貼ったこともある。子どもたちから歓声が上がった。「これで安心だね」と納得してくれた。

 2年生は通学路の安全を考える。クラスごとに町の探検に出て、登下校中に地震が発生したら危ない場所を探す。家の人と通学路を歩くという宿題もある。看板やブロック塀、古いカーブミラーなど、子どもたちは気になる箇所を見つけ出し、保護者参観日に学習成果を発表する。

 3年生は在宅時の地震発生を想定して、対応を学ぶ。1日24時間すべての時間帯を考える。教室に実物大の部屋を作って、寝ているとき、勉強しているときなど、いろいろな状況を設定してどう対応すればよいかを考える。現在は児童数が増加しており空き教室を使えないので、先生が部屋の間取り図を子どもたちに見せて、考えさせている。

 4年生は地震と津波が起こるメカニズムを学ぶ。3年生での学習とつなげて、避難時に家族が何を持って逃げるべきか、大きな地震で家族がばらばらになったらどこを集合場所にするか、なども考える。この課題は家族で話し合って解決しなければならない。家族会議が宿題だ。

 5年生は自宅から始まり学校、通学路へと広がっていった学習の視点をさらに校区にまで拡大していく。町探検に出て校区を調べ、防災マップを作る。校区は広い。担当地区を決めて調べ、各班の調査結果を合わせて小学校区全体の防災マップを作る。地域をより深く知るために町内会長の話も聞く。子どもたちは地区ごとに「通学団」で登下校している。通学団の打ち合わせ会が年に3回あるが、6年生になって最初に下級生へ教える。6年生の真剣な発表を他学年の子どもたちがしっかり聞く。

 6年生は避難所設営の練習にとりくむ。学校が避難所指定を受けているからだ。地震発生は子どもたち、職員が学校にいる時間帯に仮定する。どうしても子どもたちの助けが必要だ。子ども主導で避難所を作っていく。子どもたちは受け入れ側と避難側に分かれて両方を疑似体験する。地域住民も参加してくれる。

 訓練当日の活動だけでなく、事前学習と準備が大切だ。子どもたちは西尾市の避難所設営のガイドブックやコロナ禍での避難所運営冊子を読み込む。自分たちで調べて、さらに西尾市の危機管理課や地元のボランティア団体「一色防災ネットワーク」、名古屋市にあるNPO「レスキュー・ストックヤード」などのゲストティーチャーからも学ぶ。

先生も子どもたちも「バトンタッチ」

 1年間の実践が終わると2~3月に各学年が1年間の実践をまとめて次の学年に渡す。ワークシートや実験の記録は、次の学年の準備の助けになる。ただ、受け継いだ学年はそれを全部そのまま使うのではなく、内容を吟味して理解して再構築する。

 例えば6年生の避難所設営は今年で3回目となるが、昨年までは教師が決めたプランに沿って子どもたちが活動していた。今年は、避難所のデザインも子どもたちが考えるように変えた。コロナ対応を取り入れた動線や感染の疑いのある人への配慮を考えた。コロナ禍もあって外部からの参加者を30人ほどに絞ったが、参加した町内会長や保護者は、子どもたちの動きを評価してくれた。子どもたちの学びを通して保護者も意識を高める。

 防災教育は「防災」と「教育」だととらえている。防災の学習が軸となり、他の教育活動を防災にうまく絡めていく。例えば、道徳の授業。道徳でも思いやりを重点目標として取り上げた。防災に親和性のある話を見つけて取り入れた。子どもたちは、防災をがんばっているので、防災に近い題材には反応がよい。

 学校が目指す子ども像は、「被災しても追い詰められた状況であっても思いやりの心を失わない子ども」だ。先生方は、小学生の時に心を耕して中学生、高校生の年代で活動できる子どもに育っていって欲しいと願っている。

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