地場産業で東日本の被災地を支援
東日本大震災の被災地への訪問と交流、支援活動をずっと続けてきた。
ぼうさい甲子園で被災地の学校が受賞している姿に刺激を受けた。その被災地と遠く離れた大阪府堺市にある定時制高校が受賞する。今までの活動が認められたと思う。正直うれしい。
地元の地場産業を学ぶ「堺学」という授業がある。土曜日の午後の授業だが、正規の科目だ。伝統地場産業である包丁と線香の二つのコースがある。
東日本大震災が発生した時、生徒たちは自分たちが製作したもので被災地を支援したいと考えた。問い合わせてみると、小中学校の家庭科の時間に使う包丁や農業高校の道具が流されてしまったり、錆びたりしているという。まず、包丁をプレゼントした。堺の包丁は鉄製でさびやすい。被災地に送る包丁はステンレス製にした。小学生が使える小さめのサイズだ。もう一つの線香には鎮魂の思いを込めた。堺のイベントで販売して義援金に変えて被災地に送った。その活動をずっと継続してきた。
被災地を訪問して包丁を研ぐ
5年くらい前のことだ。寄贈した包丁の切れ味が鈍ってきている頃なので、研ぎ直しに行こうと考えた。生徒たちは授業で刃物を研ぐ実習も行っている。寄贈した包丁を研ぎながら地域の方々の話を伺う。津波に流された奥さんの形見の包丁があった。被災地では、思い入れのある包丁が錆びていた。仮設住宅を訪れてその錆びた包丁を研がせていただいた。「ありがとう」という言葉に生徒たちは自分が何かの役に立っていると実感したという。
被災地に行くと4-5日は滞在する。1年に1回、多くても2回の訪問だ。現地の高校生たちとも交流する。線香などは郵送しないルールにしている。手渡しして自分たちの気持ちを説明するのが基本だ。
被災地での学びを地元に還流
これまでは夏休みに訪問していたが、今年度はコロナ禍で夏は遠慮した。11月行くことができた。釜石を訪れた時に「震災当初はいろんな人が来てくれた。今来るのは堺工科定時制だけだ」と言われた。その言葉を聞いて生徒の中に気持ちが芽生えていく。それが日頃の学校の生活に反映されていく。この感覚は現地に行かないと生まれてこない。
交流中に津波の話をよく聞き、避難の方法などを学んだ。それを生徒たちは堺での防災訓練で参加者に伝える。最近では、大阪でも自然災害が連続して発生している。大阪府北部地震(2018年6月18日)や台風21号(2018年9月4日)など、大きな被害を受けてきた。大阪で防災の意識を高めたい。
この時は、堺工科高校定時制が支援してきた宮城県農業高校が、自分たちが育てた野菜にメッセージを添えて送ってくれた。交流が生んだ支援だ。災害の時はお互いさまという感覚を大切にしていきたい。
活動を通して生徒たちに変化が見られるようになった。「あたりまえのことを当たり前と思ったらだめだ」と生徒が言う。「『あたりまえ』に感謝しないとだめだ」と。被災者との交流からそう考えるようになった。
ものづくりは、強い
生徒たちと教員で自然災害を乗り越える方法を考えた。2年前、バイオディーゼル発電機を製作した。軽油やガソリンではなく使用済みの天ぷら油で発電する仕組みだ。何かあった時に使えると考えて作った。そのあとすぐ、最強台風が上陸して停電に見舞われた。電気工事の業者が復旧のために学校にやってきたが、この発電機を使って工事をした。ものづくり系は強いと実感した。
近年はプラスチックごみが問題になっているので、今年度は、ペットボトルのキャップや食品トレー、レジ袋から油を作る機械を作った。その油は前に製作した発電機に使える。大阪の企業に教えてもらいながらの活動だった。
堺はトンボ玉でも有名だ。授業で伝統工芸師が作り方を伝授する。堺はお祭りも元気だ。だんじりの飾りを彫る職人の指導で厄災を撃退する妖怪、アマビエを彫った。宮城県階上中学校と防災かるたも作って気仙沼市の東日本大震災遺構・伝承館で配ってもらう予定だ。釜石市鵜住居にあるいのちをつなぐ未来館にも送って配っていただく。
大阪府内の高校から、一緒にものづくりをしたいオファーもある。コロナ禍なのでなかなかできないのがもどかしい。以前は近隣の中学生と一緒に線香を作ったこともある。修学旅行先で販売してくれた。
「忘れない」ことが大切だ
今後やってくる南海トラフ巨大地震への備えが必要だ。地元の防災訓練でも伝えたい。
課題は風化させないことだ。大船渡東高校とレッドカーペットプロジェクトにとりくんでいる。被災地に椿の花をいっぱい咲かせる。11月に訪問した時、陸前高田市の岩手県東日本大震災津波伝承館近くで生徒たちが植樹をした。伝承館を訪れる方々に堺からのメッセージを伝えることができたら良いと思う。宮城県農業高校とはコラボ線香をつくった。桜の花を送ってもらい、花びらを練り込んだ線香だ。桜の塩も作った。
そんな活動を広げるために、いろんな学校に声をかけて行きたい。
被災地東北は、忘れられかけている。メディアは記念日が近づくと報道するが、普段はあまり触れない。修学旅行などに被災地訪問を組み込んで、伝承館を訪れたり語り部の話を聞いたりすれば、防災教育がもっと広がっていくはずだ。