学校は海に近い。津波への不安は開校以来ずっと感じていた。東日本大震災でその不安が一気に膨らんだ。形だけの防災計画は止めよう。本物の、意味のある防災教育をしようと考えた。これまでの様々な経緯の中で「ラップ防災」をやろうというアイデアが生まれた。紙のお皿に敷くラップではない。音楽のラップだ。障害を持ったこどもたちが、防災をラップに載せて歌う。一気にブレイクした。防災の学習が楽しくなった。先生方も工夫する。小学部、中学部、高等部を通じて首尾一貫した防災教育をデザインした。地域、行政も応援してくれている。千葉県で行われている1,000か所ミニ集会を学校で開いた。大学の専門家や行政、消防が応援してくれた。毎年3月には、翌年の防災学習の案を考える。長年の蓄積と先生方のアイデア、子どもたちの熱意で、毎年新しいアイデアが上書きされていく。
令和元年度 中学部「総合的な学習の時間」 防災カルタでの津波からの避難についての学習
平成30年度 中学部修学旅行 東京臨海広域防災公園見学 これまでの防災学習との関連づけを図る
令和元年度 1学期終業式で「ラップ♪防災~夏休みの過ごし方」より夏休みの安心安全を考える。
令和2年度 津波からの校外避難訓練(小学部)感染防止対策として学部ごとに分散して実施。
令和2年度 津波からの屋上避難訓練 感染防止対策として放課後に関係職員代替研修として実施。

千葉県立長生特別支援学校

東日本大震災がきっかけで

 受賞の知らせを聞いて児童生徒、職員みんなが素直に喜んだ。賞ありきではないが、大きな励みになった。

 学校は海に近い。東日本大震災で津波の恐ろしさを知り、計画だけではだめだと考え始めた。

 学校は開校当時から津波への備えを考えていた。総合的な学習(探究)の時間の地域をテーマとした単元では必ず防災を取り入れてきた。学校全体の訓練は防災係が実施し、基本的な防災学習は各学年・学部でとりくんでいる。例えば、防災かるたは年度が替わると新しく作り直すが、ノウハウが蓄積しているので負担はない。

「ラップ防災」でマンネリ打破

 マンネリ化したかなと感じ始めた頃、「ラップ防災」を始めた。4年生の担任が音楽の先生で、クラスの児童ととりくんだ。ラップを歌うのは津波の心配のある一宮の子どもだ。これがきっかけとなって防災学習が一気に盛り上がった。保護者が積極的に協力してくれている。

 中学部の1年生は家庭との協働から始める。年度当初に防災リュックを作るが、非常食は家庭から提供してもらう。自閉症のこどもはこだわりがあるので、食べ慣れたものが良い。3年生は修学旅行の事前学習にも防災を取り入れる。行き先は年度ごとに違うが、例えば東京であれば防災の博物館やスカイツリーの防災体制と避難の方法などを調べる。日常の防災学習では地域の防災拠点調べ、防災かるた、津波や地震の学習、助けの呼び方、不審者の対応、自分で身を守る方法などを学ぶ。

 高等部では3年間で何か所もの避難場所を回り、まとめて発表する。校内の消火器マップを作成して掲示する。他にも多様な内容の活動を行うが、どの学部も学年も実践が被らないように教師が調整する。3学期には精査して新年度の教育計画を作成する。

学部を越えて防災交流

 全校の避難訓練では高等部の生徒たちが年少の児童たちに声掛けをする場面もある。肢体不自由児は数名で、それ以外は知的障害を持つ子どもたちで重度重複の子ども増えている。肢体不自由児の学習内容は普通校と同じだ。ところが、対話的学習は1人のクラスではできない。そこで、総合的な学習では発表を取り入れ、小学部の児童が中学部の生徒の発表を聞き、高等部の生徒はパソコンでプレゼンテーションにとりくむ。肢体不自由児と知的障害児の交流を進めている。

コロナ禍の影響は大きいが

 6月に学校が再開されてもコロナ対応に苦労した。普段、給食は児童・生徒全員78人が食堂に集まって食べていた。再開後は高等部の1、2年生だけが食堂を使い、間隔をあけて同じ方向を向いて食事をする。他の子どもたちは教室でビニールの仕切りで区切られて座り、食事は職員がコンテナで運んで配膳も行う。普段なら子どもたちは配膳からも学ぶ。その機会は奪いたくない。最近では、できる子どもは参加している。もちろん、マスクの着用と手洗い、消毒は徹底している。子どもたちは自分から手洗いできるようになった。

 全体の避難訓練はミニ避難訓練に変えた。予告をして見通しを持ってやらないとパニックになる子どももいるので気をつけている。ブラインド型訓練も実施している。身を守る行動をとる訓練は月に1回は行っている。

 例年、津浪を想定して避難場所までスクールバスに乗って避難する訓練を行っている。今年はバスに乗るまでとした。ただ、ひとクラスだけはスクールバスで避難場所まで行った。年に何度も行うので、小学部がバスに乗る日、中学部の日、高等部の日というように工夫し、1年に最低1回は必ずバスに乗るようにした。子どもたちにとってはバスに乗るまでが大切で、後は大人が避難場所まで連れて行ってくれる。

 屋上避難訓練も行っている。車いすのこどもは職員が4人がかりで運ぶ。車椅子の子どもは姿勢の保持が大切でオーダーメイドの車いすがベスト。避難所で寝ていればいいというものではない。今年の屋上避難訓練は全校一斉では行わず、ある一定の期間に学級ごとに一度は屋上に行く活動に変えた。教職員は研修会で車椅子の運び方を学んだ。新年度になると避難経路の確認などの職員向けの訓練を必ず行う。

 ラップ防災はコロナバージョンも作った。キーワードは、コロナに負けない、コロナで学んじゃおう。歌詞は、児童の言葉をキーワードに教師が作詞、授業の中で完成させる。

 子どもたちの学びをラップ防災にまとめるのも面白い。ラップ防災の集会を開いて、他の学年の学びも共有したい。

 一宮町は町長自らも学校を支援してくれている。開かれた学校づくりの委員もみんなラップ防災が好き。一宮の津波防災のラップを歌いながら一緒に防災訓練をしたかったが、今年はできなかった。代わりに実施したミニ集会では、もし房総半島に10メートルの津波警報が出されたらどうしたら良いかを考えた。ミニ集会は千葉県独自の取組で、学校を核とした1,000か所ミニ集会を展開している。千葉科学大学危機管理学部の先生が講師に迎え、パネルディスカッションには消防署長や自治体職員も参加した。

 来年以降も、地域や関係各所とのつながりを大切にして、これまでの取組をさらに進化させていきたいと考えている。

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