「看護医療・健康類型」で災害と向き合う
今年で設置8年目を迎える「看護医療・健康類型」の生徒たちが防災活動の主役だ。看護師や理学療法士、臨床検査技師、スポーツトレーナーなどを目指す生徒たちが3年間、「看護医療」や「健康スポーツ」を学ぶ。
本格的にとりくみ始めたのは、熊本地震(2016)がきっかけだった。類型を担当する教員からの提案だった。その前年には、学校独自で東日本大震災の被災地を訪れていたこともあり、熊本地震への関心は高かった。それから災害医療の分野の専門家とつながったり、兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科の専門家と一緒に活動したりしながら、今日まで防災・減災や地域・子ども、災害時要支援者について考えてきた。
休校でできなくなったことと、こんな時だからこそできたこと
3月3日(火曜日)から長期休校になった。例年の熊本地震被災地訪問ができず、人と防災未来センターの訪問もセンターが閉鎖されてできなかった。その代わりに、兵庫県教育委員会が作成した防災副読本「明日に生きる」をインターネットで読むという課題が出された。阪神・淡路大震災や東日本大震災の体験、地震や津波のメカニズム、防災・減災の大切さや具体的な方法を一人で学んだ。また、複合災害について考えるための動画や新聞記事が配信された。
生徒たちはSNSを通じてつながっている。当時、医療現場で防護服が不足し、雨合羽やごみ袋を転用しているということを授業でお世話になっている看護師から聞き、医療関係者に送る防護服を作った。全部で100セットほど作った。ひとりで10セットも作った生徒もいたという。その看護師を通して、看護協会に届けた。「誰かのためになる」という実感がわいたという。
子ども防災イベントの開催
6月になると学校が再開されたが、2週間は分散登校だった。対面での対話ができないということで例年通りのボランティアができないという事態に陥った。その中でできることは何なのかということを話し合った。その結果をもとに地元の地域交流センターに相談に行った。すると所長から8月23日に全館貸し切りで、子ども向けイベントをやらないかという声がかかった。生徒たちは教員の承諾もとらず、一つ返事で「やります」だった。
それ以降、このイベントに向けた準備に忙殺された。生徒たちは班に分かれ、いろいろなブースを準備した。お菓子ポシェットづくりや防災クイズ、三角巾の使い方、段ボールベッドの設置など既成のノウハウを使った体験ブースや生徒自作の紙芝居、劇も考えた。下校中に地震が発生した、さあ、どう対応しようという内容で、子どもたちが大好きなクイズも取り入れた。
8月23日(日曜日)の当日は、未就学の子どもたちと保護者200人くらいが参加してくれた。「看護医療」の2年生の全員が企画・運営を行い、1年生も3分の2ほどの生徒がサポートとして運営に参加した。1年生にとってはこの体験が翌年につながるのだという。他にも、吹奏楽部やアコースティック部が演奏を披露し、書道部は書道体験コーナーで指導、美術部、写真部も作品を展示した。
同じ会場で11月1日(土)には、「SDGsフェアINODA」において、目標11「住み続けられる街づくり」において、災害に強い福祉のまちづくりをテーマに市民の報告をする予定である。また、ブースにおいて、防災・減災コーナーを立ち上げ、市民とともに、防災・減災について考えていく。11月21日(土曜日)に高齢者向けのイベントを予定している。高齢者向けに簡単な動きがある運動会をやってみたい。
2学期は福祉避難所を学ぶ
7月には、東日本大震災の共同作業所の活動を描いた映画「星に語りて~Starry Sky~」の映画を7名が鑑賞した。夏休み中には福祉避難所を対象に、直接訪問やメール、手紙で聞き取り調査を行った。2学期に兵庫県立大学の研究者の指導でマップに落とし込んでいく。尼崎市の地図に福祉避難所を落とし込み、国勢調査でわかる65歳以上の人口を重ねていく。そうすると、高齢者が多いのに福祉避難所がない地域があぶり出されてくる。そこに福祉避難所を作る提案につなげていく計画だ。マップを通して災害時要援護者の課題を市民に知ってもらい、共助の輪を広げていこうと考えている。また、来年の1月23日には災害時要配慮者の現状と支援の必要性について考えてもらうために劇のシナリオを作成し、演じる予定だ、
11月14日には、尼崎小田高校「防災・減災フェスティバル」も開催する。防災班はここで福祉避難所を取り上げる。例年、午前と午後の2部構成だが、今年は午前中のみの開催で、防災の意識が高い人向けに出し物を考えていきたい。
学校が、私たちがやりたいことを応援してくれる
生徒たちにこの類型のいいところを聞いた。
現場で働いている専門家の話を聞けてボランティアもできるという評価が圧倒的に多かった。看護職を目指す生徒は、専門家から医療現場の話を聞く授業がいいと言う。ただ、新型コロナウイルス感染症の影響でインターンに行けないのが辛いのだそうだ。
人前でしゃべるのが苦手だった生徒は、ボランティアを通して克服していっていると言っていた。イベントを通して上級生から学び、下級生に伝えられる仕組みの評価も高い。
一方で、従来とりくんできた被災地への募金ができないのも気になっている。
隣の工業高校で、自分たちの先生が講師となってその学校の先生方に防災マニュアルを作るワークショップを行った。生徒たちがスタッフとしてサポートした。
高校生が小学生を教える。その子どもたちが保護者に防災の大切さを伝える。そんな構図が生徒たちの活動で出来上がってきているようだ。 学校が、私たちがやりたい事を応援してくれている、とある生徒が言った。