文部科学省・徳島県教育委員会の「実践的防災教育総合支援事業」の指定校となって始めた津乃峰小学校の取組は7年目に入った。 保護者や住民と避難所を回るウオークラリー、防災訓練や非常食づくり、防災マップ作成と町内全世帯への配布、防災頭巾の作成と高齢者への配布、地元のバス会社と連携した車中泊訓練など、ユニークな実践を積み上げてきた。月1回を超えるハイペースで行う避難訓練の半分は予告なしだ。 多様な実践の積み上げが2017年度のグランプリにつながった。 臨時休校中は「津乃峰宿題宅配サービス」を始め、子どもたちに教科の学習だけではなく、防災の課題にも取り組ませた。家庭との意思疎通に努めるために始めたことが、逆に家庭、地域から学校へ、温かい支援をいっぱいいただくことになった。 学校再開後は新しい生活スタイルを保ちながらも、地域との交流を大切にできる防災教育にとりくんでいきたい。
1,6年避難訓練
1年ライフジャケット着用練習
つのみね宿題配達サービス出発前
地域の方から全児童にいただいたマスク
ソーシャルディスタンス(手洗い場)

阿南市立津乃峰小学校

「宿題宅配サービス」

 3月からの突然の休校。担任が120人の全校生徒の自宅に学習課題を届ける「宿題宅配サービス」を始めた。子どもたちに直接会うことは避けた。手作りの「宅配ボックス」を玄関に置いてくれる家庭もあった。添削した課題には必ずメッセージを添えて返した。子どもや保護者から温かい手紙や折り鶴などをいただくこともあった。

 漢字や算数のドリルだけではなく、「鳳仙花を植えよう」「青虫観察日誌をつけよう」といった自由研究、「教室にいる時に地震発生。どんな対応をする?」「避難所について家族で話し合いましょう」といった防災の課題にも、子どもたちは取り組んだ。

 担任が作成した家庭学習の時間割に沿って子どもの支援をしてくれる家庭がたくさんあった。

 各担任は休校中、子どもたち、家庭と向き合い続けた。夕方には各家庭に電話をかけて子どもたちの様子を聞いた。学校の電話は2回線しかなく,非常時に使える携帯電話は学校に常備するよう要望している。希望する保護者とは学校で面談も行った。

子どもたち・家庭・地域の気持ち

 ある子どもとお母さんは、疫病撃退妖怪「アマビエ」を折り紙で作り先生全員にプレゼントしてくれた。折り鶴を折って、クラスへのメッセージを届けてくれた子どもがいた。

 地域の方からは手作りや市販のマスクが届いた。孫のクラスに子どもたちの名前入りのマスクを届けてくれたおばあさんもいた。

 津乃峰小学校校区にはアパートや団地も多い。市内中心部への通勤者も多く住んでいて、地縁、血縁の強い地域ではないが、それでもこれまで培ってきた学校と家庭、地域とのつながりを感じた。

できなくなったこと

 6月から授業を再開し、補充登校日を20日間実施したことで夏休みは実質7日間となった。

 通常なら新学期には避難訓練を行うが、今年はできていない。新型コロナ感染症に加えて熱中症も心配だった。

 6月は子どもたちを学校になじませることを優先させた。本来の学校での生活様式とコロナ禍での新しい生活様式の確立に時間をかけた。ホームルームづくりと教科学習の遅れを取り戻そうと奮闘した。

 実技を伴う教科は苦労している。音楽ではマスク着用で歌い、リコーダーも距離と換気に気をつけながらの演奏だ。体育も個人競技がメインだ。陸上運動はセパレートコースにし、グラウンドとプールサイドに2メートル間隔の集合ポイントを設置して密集を防いでいる。

 給食は担任が配膳し、子どもたちは1メートル間隔で並んで受け取る。おしゃべりなしの給食だ。

 トイレ掃除も消毒も教職員の日課となった。

 9月に予定していた下校時避難訓練は延期した。

 修学旅行の行先も変えた。津乃峰小学校は修学旅行に防災を取り入れ、人と防災未来センターでの学習も予定していたが京阪神への修学旅行はできなくなった。

 保護者の中には、県をまたいでの移動を職場で禁止されている方もいる。子どもを他府県への修学旅行に行かせられないのだという。高齢者施設で働いている保護者もいる。いろんな条件を勘案して県内プランに決まったが、今後の新型コロナ感染症の状況次第でどうなるかわからない。

新しい生活様式での防災教育

 子どもたちが作った防災マップは今、県立防災センターに展示してもらっている。今後の授業をどう展開していくか、専門家と打ち合わせをしながら準備を進めているところだ。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、新しい視点で学校教育を捉え直している。

①複合災害への対応
 災害は単独で起こるとは限らない。地震と津波、熱中症、台風、新型コロナ、そんな災害が同時発生したらどう対応するかを考えたい。

②災害と科学
 津乃峰小学校の地域は地震と津波から逃れられない。校区はもともと塩田だった。学校は昔の沼地に建てられている。地震で液状化が起こると避難経路をたどれない恐れもある。学校や地域の住宅には倒壊の危険性のあるブロック塀も多い。従来は1.5キロ先の防災公園へ逃げる訓練を繰り返してきたが、それで本当に大丈夫なのだろうか。科学的な検証に基づいた防災教育が必要だ。
もちろん、新型コロナ感染症や熱中症の対応にも正しい科学的知識が必要だ。

③ICTの活用
 ICTを通してリモート学習などにより校内だけではなく市、県、全国レベルでの交流を実現させたい。

④教職員の資質・技能の向上
 教職員が新たな教育機器やそれを使った授業に習熟しようと頑張っている。

⑤学校の様子の見える化・わかっていただくことの重視
 HPや学校だよりを通して学校のとりくみを発信し、理解を広げていきたい。「宿題宅配サービス」の成果を継続する。関係機関・マスコミとのWin-Winの関係も続けていきたい。

これまでのとりくみの継承と新たなチャレンジ

 昨年までの実践をもとに、今年もいろいろな学習、活動にとりくんでいく予定だ。

 例えば、3年生では算数の時間に避難リュックに何を入れるかを考えさせる。総重量を決め、その中で必要なアイテムを話し合って決める学習だ。これは過去の実践例が残されていた。実践の蓄積は宝だ。

 校区のいろんな地域の住民から昔の津乃峰の話を聞き、残していく学習もしたい。昔を知ることは、昔の災害を知ることにもつながる。

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