「ぐるみの会」で防災活動
興津小学校の防災教育は、2005年に文部科学省の「地域ぐるみ学校体制推進委員会モデル事業」の研究校に指定された時に始まった。事業によってスタートした会は通称「ぐるみの会」と呼ばれて親しまれ、定着していった。
興津地域にはもともと地域ぐるみのとりくみがあったが、そこに研究指定があって、京都大学防災研究所の支援が始まった。最初のとりくみは5、6年生による防災マップづくり。子どもたちの提案によって、海の近くにあった保育所と高齢者施設の高台移転や夜間避難のための蓄光マーカーの取り付けが実現していった。
歴代の校長は四万十町の出身者だったので地域連携がやりやすかった。近年は町外の校長が続いたが、2005年から活動を続けるぐるみの会が中心となって地域連携をリードしており、教職員が地区外からやってきても活動はやりやすいという。
ぐるみの会は年に3回会合を開いている。学校と地域、危機管理課、教育委員会が参加し、町のキャリアアップ事業を活用して様々なとりくみを展開してきた。
子どもたちが作った防災標語の立て看板の作成とその補修は継続的に行っている。例年はぐるみの会で防災視察にも行っている(今年はコロナ禍で実施できなかった)。防災訓練で活用するトランシーバーを購入するなど備品の充実にも力を入れている。
炊き出し訓練は隔年で行っており、去年で8回目になる。消防団員を含め地域住民300人が参加する。子どもたちが受け付けや大なべを使った調理を担当する。
子どもたちが防災にとりくむことで親世代の防災意識が向上している。地域の防災訓練には子どもがいる世代の参加率が高い。学校での防災教育がいい影響を与えている。
学校間交流
町教育委員会が展開するキャリアアップ事業では、去年度は興津小学校と山間部の七里小学校の防災交流を行った。津波と地すべりという違った災害リスクを持つ地域の学校の交流だ。1学期は興津小学校が七里小学校へ行き、2学期は逆に七里小学校が興津小学校を訪れた。興津小学校での交流には山間部にある影野小学校がオブザーバーで参加した。みんなで避難訓練をし、興津小学校の子どもたちが案内役で避難場所巡りを行った。
去年、一昨年は防災マップをすごろくにし、学習発表会で地域住民と一緒に遊んだ。現在、防災マップのAR[1]化にとりくんでいる。地域の防災ポイントや名所を説明する映像を撮影してQRコードでマップに載せ、タブレットを使って説明文を打ち込んだ。アイコンも子どもたちがイラスト化した。
少子高齢化に立ち向かう
児童の減少が大きな課題だ。6年生と5年生で防災マップにとりくむが、今年は合わせて3人しかいない(6年生2人、5年生1人)。人数が減るととりくみが難しくなる。地域と毎年一緒にやってきた避難訓練や、隔年で行ってきた炊き出し訓練は少人数では難しい。学校の運営では児童会活動などの社会的な活動が困難になっている。
もう一つの課題が、地域の高齢化だ。津波避難訓練を行っても高齢者は走れない。「逃げトレ[2]」というアプリを使って避難訓練をしたが、ぎりぎりで津波につかまってしまう高齢者もいる。ただ、子どもたちが作った防災マップを手にもって歩いたり、避難タワーに登ったりして、健康維持に励むお年寄りもいるようだ。
防災だけではない
防災学習が学力の向上にもつながっている。思いやりの心も高まっている。6年生を見ていると、見て話を聞いて文章にまとめる力がついてきている。なにより「生きる力」につながっている。
防災学習と共に環境学習にも力を入れてきた。ウミガメの保護にもとりくみ、一昨年までは卵を孵化させていた。一昨年末、専門家から、ハウスで孵化させると雌ばかり生まれると聞いて、今は産卵場所を竹で囲って保護している。子どもたちにとって浜は身近な存在だ。大切な自然を守りたいが、一方で津波が来る存在でもある。
とりくみを残して活用したい
学校が統合された後も成果を残していくために、興津中学校の校舎の1室を使って防災ミュージアムづくりを始めている。学校や自主防災組織などの研修に役立ててもらいたいと願っている。子どもたちの作成したマップやすごろく、壁新聞、表彰状などのレプリカを展示する。津波襲来地域なので、実物は高台で大切に保管しておこうと考えている。
地域と作り上げてきた防災活動も残したい。立て看板や蓄光マーカーなどの更新、避難訓練は継続していく。統合先の学校にも防災教育を持ち込みたい。
[1] AR:Augmented Realityの略。「拡張現実」のこと。実際の風景にコンピューターなどを使ってバーチャルの情報を重ねて、どんどん広げていく。
[2] 逃げトレ:詳しくはhttps://nigetore.jp/参照。