地域とともに災害伝承と防災にとりくむ
1.受賞の知らせを聞いて、どう思いましたか? こどもたちの反応は?
校長はまず「まさか」と思ったそうだ。うれしいけれど、まさかという感覚だ。生徒も先生も、防災教育のとりくみを始めた時はまだ「ぼうさい甲子園」を知らなかった。そんな状況への受賞の知らせを、保護者がとても喜んでくれた。保護者参観日に大賞受賞をお知らせら、すべての学年から拍手が起こった。こどもたちの活動の価値を理解してくれているからだろう。
2.どんな活動を続けてきましたか?
これまでは、地域の方々に学校での防災訓練への参加をお願いするパターンだった。それでは地域の方はなかなか参加できないと考えた。地域は震災からの復興の街づくりの真っ最中だ。そこに生徒たちが出かけていけば良いと考えて、方針を転換した。鹿折地区のまちづくりに中学校の防災を取り入れて欲しいとお願いすれば、一緒に活動できると考えた。
まず、地域住民が学校の体育館を使って避難所設営訓練を行った。校長と教頭、防災担当教員が見学させてもらった。その1か月後、地域の方々約50人の指導を受けながら生徒たちが設営訓練を行った。生徒たちは学年や部活動で縦の指揮系統を経験しており、たったの16分で避難所を設営してしまった。その姿に地域の皆さんが驚いた。これだけできるなら地域が中学生と一緒に活動しようと考えてくれた。秋にも訓練を実施したが、大人中心の運営だった体制に、中学生も参加する方式をとった。
3.今年度の一押しの実践を教えてください
震災伝承を去年から取り入れた。震災時、鹿折地区にいた10人を招いて体験を聞いた。全校生徒たちは地域ごとに少人数グループに分かれ、10人がどうやって逃げたのか、どこで何を見たのか、何を考えていたのかなどを、時系列に沿って聞き取っていった。体験談から学んだこと、教訓を12月、参観日に地図や映像などを使って保護者に発表した。災害伝承は大学の研究者のアドバイスも受けながら継続している。
その成果をもって、近隣の鹿折小学校に出かけての出前授業を実施した。今年度も1月以降に予定している。3月には気仙沼の東日本大震災遺構・伝承館で地元の高校、中学校が参加する防災文化大が開かれる。そこで、防災の学びを発表する予定だ。
4.現在の課題と、将来、とりくみたいことを教えてください。
被災を体験した先生と体験していない先生の温度差が課題だ。ただ、その温度差は、こどもたちの学習への意欲と成果で埋めることができると考えている。地域と一緒に学ぶこどもたちの姿勢が先生方を動かし、地域をも変えていく。例えば、今年、鹿折地区に自主防災本部が立ち上がった。
気仙沼市は現在、養殖やプラスティックごみなどを学ぶ海洋教育へとシフトし始め、防災にとりくんでいる学校が減ってきた。震災直後の生き延びる勉強はたくさんしてきたが、災害伝承を伝えていこうという新しい学習に、各学校がまだ追い付いていない感じがする。震災を記憶していない世代に、まず、震災で何が起こったのかを知ってもらうところから始める必要がある。
体験を語ってくれた地域住民は防災学習発表会に招待している。中学生の発表を聞き、評価もしてくれる。そんな活動が広がれば良い。
防災教育は校長など、リーダーとなる人がけん引する場合が多い。それでは、人事異動で学校の方針が変わるとなくなってしまう。どう持続していくかが課題だ。地域の方々と共に防災教育を作り、それを可能にするシステムを学校に残して、継続していくようにしていきたい。
地域住民の体験を聞くとりくみは来年で3年目になる。3年間聞かせていただいた鹿折の体験を1冊の本として残したいと考えている。